【だれも知らない泣き虫のあなた・中編】


それからしばらくはカカシ先生に会う機会はなかった。
ずっと心に引っかかって、抜けない棘のように、あの涙を思い出す日々が続いた。
そんなとき。
偶然、本当に偶然にあの人を見つけた。
確か今日も上忍の任務が入っていたはずだ。
もう任務は終わっているのだろう。ゆったりと座り込んでいる。
ぼんやりと空を眺める横顔には涙が流れていて、胸が詰まった。
やはり何か悲しいことがあって泣いているのだろうか。
どうか、泣かないで欲しい。
その日は声をかけそびれ、涙が止まって家に帰るために立ち上がるまで見守っていることしかできなかった。
それからは、カカシ先生の上忍としての任務が入るときを気にかけるようになった。 幸い受付の仕事が交代で組み込まれているので、それを知るのはそう難しいことではない。
任務があった日の夜は、いつも猫背な後ろ姿を探した。
必ず見つけられるわけではなかったが、人の気配のない景色のいいところにいる確率は高かった。
いつも偶然を装って声をかけるのは、あまりにも無理があるはずだが。
それでも声をかけ、嫌な顔されずに隣に座ることを許されれば、探すのを止めようという気も起こらなくなった。
静かに微笑みながら流す涙を見るのは胸をかき乱されるような気分になったが、涙が止まったその後の心からの笑顔はさらに胸を締め付ける。
「任務が終わった後、たまに」と言っていた言葉通り、必ず泣いているわけではなかった。
その事実は少し安堵をもたらしたが、なぜ涙が流れるのか気になった。
ある時、報告書の整理を任されたので、カカシ先生の任務について調べてみた。
『敵の死亡を確認』
泣いていた日の報告書には、必ずその文字があった。
その奇妙な符号。
人を殺した任務の後に、必ず流される涙。
それはつまり、人を殺したことに対しての悲しみ。
それ以外あるだろうか。
やはり、と思った。あれはきっとそういう意味の涙だったのだ、と。
左眼しか泣かない。どうしてか、なんて理由などわからないけれど。
側にいて、何かの役に立ちたいと願う。


「もしよかったら、待ち合わせしませんか?」
「え?」
「イルカ先生、いつも探してくれるでしょ。だから……嫌じゃなかったらですけど」
目を伏せがちに視線を合わせないようにしながら、そう提案される。
頬が少し赤いような気がするのは気のせいだろうか。
けれどその提案は、隣にいてもいいという明確な許しを得たような気がして嬉しかった。
今までものことも不愉快に思っていたわけではなかったことに安堵した。
「喜んで」
無意識のうちにそう返事をしていた。


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