【だれも知らない泣き虫のあなた・後編】


移植された眼や心臓が元の持ち主の意志を受け継いで動くという話は、聞いたことがある。
もし、それが本当だったら。
自分はどうするというのだろう。
泣くことを諦めてしまった人が少しでも楽になれるように、涙を流す。
心が傷つかないようにずっと守っていくだろう左眼。
死んでもなお、あの人を守る親友という人のことを考えるたびに、どうしようもなくじくじくと胸が痛んだ。
あの人を守っている存在が他にいるという事実が、ただ自分の無力さを実感させられて嫌だった。
すっと血の気が引いて足のつま先まで冷たいのに、腹の辺りだけはなぜか熱く。
ぐずぐずと燻るような熱さは、どうしようもなく不愉快な気分にさせられた。
それが嫉妬というものだと気づく。
きっと自分は、カカシ先生が恋愛感情で好きなのだ。
他の人では我慢がならず、自分が守ってあげたいと望んでいる。
何の力もないくせに、そんな欲求だけは膨れあがって。
負の感情だけが渦巻く。
初めて見たときはあれほど綺麗だと思っていた写輪眼も、今では自分の醜い心を映し出すようでまともに見ることが出来なくなってしまった。


「今晩お暇ですか」
受付でそう声をかけられて、ドキリとした。
「カカシ先生……」
今日は上忍の任務が入っている。
目の前で泣かれたら、自分は平静を装うことができるだろうか。
会いたいけれど、会いたくない。
会いたくないけれど、会いたい。
「すみません。今日は……」
なんと言えばいいのか自分でも迷っていると。
「ああ、わかりました。また今度」
返事をする前に笑顔のまま行ってしまった。
ホッとした安堵の気持ちと、やはりたいして必要とされていないのだという寂しい気持ちが入り混じって複雑だった。
これでよかったんだと思い込もうとしたが、それはなかなか成功しなかった。
こんな子供じみた感情のまま会うのはきっとよくない。
醜い感情を知られて嫌われるのはもっと耐えられない。
それぐらいならいっそ諦めてしまった方がいいと思った。
これからは二人きりで会わないようにするのがいいだろう。
そのうちにこの感情も薄れて、何でもないように生きていけるかもしれない。
自分にそう言い聞かせた。


何度もカカシ先生の誘いを断るようになり、断るたびに不審気な視線を向けられたが、もう自分から会いに行く勇気もなくなってしまった。
まだ胸は痛んで仕方がないけれど、いつかは慣れてしまうだろう。
ぼんやりと考えながら家に入ろうと鍵を開けた瞬間に、腕を掴まれた。
はっと顔を上げると、それはカカシ先生だった。
「聞きたいことがあります」
静かな声。
どうしたらいいのかわからず呆然としているうちに扉の中に入られ、狭い玄関先で二人して肩を押し合うくらい近くに並んで立っていた。
額あてをゆっくりと外され赤い焔が見えた途端、つい視線を逸らしてしまった。
写輪眼は見たくない。
まるで自分のものにはならないという証のようで。
見るのは嫌だった。


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