【同じ空の下4】


今までこんな話を人にしたことはなかった。大切な思い出だったから。
でも、カカシ先生はどう思っているんだろう。
くだらない話だと思っているだろうか。馬鹿な子供だと。
もしそう思われていたら恥ずかしい。
不安になってそっと様子を窺っていると、カカシ先生が呟いた。
「羨ましいな」
「え?」
「すごく愛されていたんですね、ご両親は」
自分が愛していたのはもちろんのこと、両親もこの上なく愛してくれた。
でも改まって言われると、つい照れくさくなって少し俯くと。
「俺にとっても男前ですよ」
と、カカシ先生が鼻傷にキスをした。
「黒い髪も大好きだし」
などと言って撫でてくる。
「ぷ。やめてください。真剣な話をしてたのに」
「俺も真剣ですよ」
ちょっと拗ねたようにそう言われて、心の中では嬉しかったりする。
父と母が愛してくれた傷と髪を、同じくらい愛してくれる人がいる。この上もなく幸せだと思う。
「イルカ先生はどうするつもりですか、明日」
抱き留められままそう問われて困った。
「どうって報告しないと……」
「依頼を受ける、という形を取ったのなら、イルカ先生の自由にしていいってことでしょう?」
カカシ先生に言われてようやく気づいた。
たしかに五代目は言った。『お前に無理なら誰にだって不可能だろう』と。あれは俺が名乗らなければ、依頼主に明かすつもりはないことを暗に指し示していたのだ。
最初にあの女性の話を聞いたときに、すでにわかっていたはずだ。預けられた赤ん坊が『うみのイルカ』だということを。けれど、俺にはそんなことは一切知らされず、ただ依頼人の話を聞くようにとしか言われなかった。
選択を委ねられている。
それがわかったとき、俺の心はもう決まっていた。


翌日。調査結果を伝えると言って依頼人を呼び出した。
「あの……うみのさんは見つかりましたか? 今からお会いできるんでしょうか」
不安と期待で自分の胸の前で手をぎゅっと握りしめている女性を見ると、胸がズキリと痛んだ。
短い爪の中には土がこびりついていて、農業を営む手だった。生きてきた年代を感じさせる手。食物を作る暖かい手。
もしも俺が赤ん坊の頃に預けられなかったとしたら、こんな手と爪をしていたんだろうか。そんなことを思った。
俺は今、そんな手を持つこの人を騙そうとしている。


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