【同じ空の下5】


後ろ姿が見えなくなってもその場を離れがたく、俺は横に立つ五代目に思いきって聞いてみた。
「綱手さま。なんであんな嘘を言ったんですか?」
「んん?」
「『記憶を消して村へ帰してやる』だなんて」
もしかして五代目は、農家の生まれで忍びの才能なんて全然なかった俺を厄介払いできると思ったんじゃないかと、少し不安だった。あの一言が気になっていた。
五代目は思い出したように、ああ、と頷いた。
「きっとお前が断るだろうと思ってさ。事情はどうであれ、今のお前は忍びだろ? それは自分の選んだ道で、それ相応の覚悟もできているはずだ」
覚悟。
それは忍びであり続ける覚悟。
どんな些細な任務にも機密はあり、それを外へ漏れる危険性があることを里の上層部は許さないだろう。
「はい。一度忍びになった者が、そんなことをできるはずがないってことはわかっています」
忍びとして生きることを選んだ以上、途中で放り出すことはできない。選んだのは自分であって、その他の誰かではないのだ。
言われるまでもないあたりまえのことだったのに、五代目を疑ってしまって恥ずかしい。そして、信用されていたという事実はとても嬉しかった。
「……でもな。もしも断らなかったら、それはそれでよかったんだよ」
「え」
五代目はまっすぐ前を見つめていた顔をこちらに向け、優しく笑った。
「もし本当にそう望むなら、そうしてやろうと思っていた。お前達の幸せが火影の幸せだからね」
涙が出そうだった。
本当はとっとと追い返せと命令されてもおかしくはなかった。
三代目といい、四代目といい、今目の前にいる五代目といい、火影になる人はみな心が広すぎる。その人の元で働ける俺たちもまた、幸せなのだ。
「俺は、たとえ何があってもずっと一生木ノ葉の忍びで、火影さまに命を捧げます」
「そういうお前達が住む里を、命を賭けて守るのが火影の仕事さね」
そう言って五代目はおおらかに笑い、重たそうな胸の脂肪を揺すった。
「でもまあ、よかった。お前があっちを選ばなくて」
「たかが中忍一人が減ったところで困らないでしょうが、そう言ってもらえて嬉しいです」
そう、たかだか中忍一人だ。中忍にできることなど、上忍の働きと比べものにならないくらい微々たるものだ。けれど、そんな一介の中忍を忍びの長に少しでも惜しんでもらえるならば、今までの自分のやってきたことも無駄ではなかったのだと思える。
そう思っていたら、怒鳴られた。
「何言ってるんだ、お前がいなくなったらこっちは困るんだよ! 子供たちは騒ぎ出して、受付連中からは恨まれ、報告する忍び連中はストライキを起こすだろうし、なによりうち一番のエリートが暴れて里抜けするに決まってるんだからさ」
五代目がくいっと親指で指し示した木の側で、銀色に光るものがちらりと見えた。
気づかなかった。いつから?
呆然としていると、
「最初っからついてきてたよ」
と笑われた。
忍びとしても一人の人間としても恥ずかしい。頬が熱い。
「でも、真面目な話。みんな、お前のことが必要なんだ。『うみのイルカ』がね」
「……ありがとうございます」
必要だと言ってもらえる喜びに胸が震える。
「これからも木ノ葉の忍びとしてバリバリ働いておくれ」
「はい。お任せください」
五代目は『頼もしいな』と笑って去っていった。


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