女ばっか目で追いかけてる奴だとは思ったんだ。信じられないほどフェミニストで口がうまい。 「彼女は?」 「いませんよ、そんなもの」 苦笑気味で言われたから、じゃあ俺は?と尋ねたのはただの興味本位だったのだけれど。 付き合って二週間、 予想外のドアが開いて顔面に衝突して俺が鼻血出したときに異様に興奮しだしたのが最初。 「ていうか、どこから出てくんの!どこから!そこ物置!」 「ああすいません、ほんとに、すいません」 いいけど、そんな見ないでいいよ、血好きなの?と聞いたら、押し黙って、それで 止まらないから手で押さえたら、腕まで滴っていく赤い血に ゆっくりと舌を這わせたその場面は今だって鮮明に思い出せるほどエロくて、美しかった。 「女の人が凄く好きなんですけど」 「それ知ってるよ。有名だもんイルカせんせの噂」 「…どうもすみません」 「でもそれ、血が?体が?女それ自体が?」 「全部です。だから、困るんですよ」 俺の愛しい恋人である吸血鬼は、なんの照明もない真っ暗な部屋のベッドで俺の隣で横になりながらふくれっ面をした。 「女の人の血が一番おいしいんです」 「…男でごめーんね」 「だけど女の人に優しくしたいし嫌われるのもイヤなんです。だから、」 「彼女作らないんだ」 「気味悪がるでしょ、血を吸いたい、なんていったら」 「俺はべつにいいけど」 「カカシさんはどっちかっていうと女顔でキレイだから、まあいいかなーって」 「…なにそれサイアク」 冗談ぶって話し、明るく笑う顔に陰がある。 ごめんなさい 何度も何度も何度も謝って俺の血を吸う君がただ愛しい。 だから謝らなくていいんだよ そこいらのアダルトビデオだとかポルノ映画なんかより、それこそ俺の愛読している十八禁小説よりも 断然、肉感的な情景。 空虚な室内に時折響く濡れた音が耳に届くたび、 烏の濡れ羽色の髪の毛先が肌をかすめるたび、 暖かい濡れた舌が傷に触れるたび、 呼吸を感じるたび、 俺の体全てが性感帯のように反応する。 彼が舐めているその傷に全神経が集中しているかのように耳の後ろがぞわぞわする。 この吸血鬼はセックスを嫌うくせにその気にさせる表情が死ぬほどうまいと思うのだ。 少し上気したほのかに色づいた頬、その上に薄く開いた黒曜石のような瞳。 俺の左手の親指と人差し指の間、ナイフを滑らし滴り落ちてくる血を舐め、吸う それを見ていたらもうぱんぱんに膨らんだ下のほうに手を伸ばさずにはいられなかった。 ごちそうさまでしたっていうのが正解なんでしょうけど、ありがとうございました、と言って、唇をぬぐって彼は頭を下げる。 俺がその顔を掴んで、耐え切れずにキスをした瞬間、彼が唇に噛み付いた。 そして、流れる血を恍惚とした目で見つめたあと、我に返り、顔を逸らしてすいません、と謝った。 「イルカ先生」 「ごめんなさい」 「舐めてよ」 血、出てるんだから舐めなよ。俺は来ていたTシャツを脱ぎながら言った。 言うと、俺から顔を背けたまま涙を一粒こぼして ああ君はまた謝る? 「ごめんなさ、」 「謝らないで」 狂ってる。 「謝らなくていいから、もう」 君もだけど俺のほうがもっとずっと。 「ね、早く舐めて」 だってイっちまいそうなほど幸せなんだ。 「カカシさん、」 言いかけた君を床に組み敷いて見下ろせば、君の大きな瞳に溜まっていた涙が顔に線を作った。 そうだ狂ってんのは俺のほう 君より恍惚に満ちた顔で呟くんだ 「俺の血で君が生きてるなんて、そんな幸せなことってないよ」 |