まだ目の醒めない俺の耳に聞こえるのはあなたが新聞をめくる音。鼻に飛び込むのはあなたの煎れるコーヒーの香り。 猫と新聞とあなた イルカは新聞を畳むと軽く首を回し、伸びをした。そのすぐ横で、淡いグレーの肌掛けにくるまったカカシがすやすやと眠る。グレーの肌掛けにくるまって、ぎんの髪と白い鼻先と手の先だけ覗かせて横向きに眠る姿はだれきった猫みたいだ。 毎朝早く起きたらまず一杯のコーヒー、そしてそれを啜りながらゆっくりと新聞の端から端まで目を通す。それがイルカの長年の習慣だった。それはカカシがイルカの生活にするりと入りこんで来てからも変わらない。 カカシはイルカの隣で目を覚ます朝、手を伸ばしてもイルカがいないことをひどく寂しがった。最近では一旦目を開けると半分眠ったまま肌掛けだけ引きずりながらイルカのところに来て、真横にころんと転がる。 「コーヒーのにおい、しんぶんのにおい、イルカせんせいのにおい」 歌うように呟きながらカカシは再び眠りに落ちていく。 「イルカせんせいのにおい、イルカせんせいのて」 イルカは時計を見ると、まだ朝の支度を始めなければいけない時間に30分ほど余裕があることを確かめた。 一旦縛った髪紐をぱらりとほどくと、カカシの肌掛けを半分引っぺがして自分も滑りこむ。うう〜と急に入り込んだ冷気に不満げに眉を寄せたカカシが、イルカごと肌掛けを引き寄せた。 「これはカカシさんのて、カカシさんのゆび、オレのて」 自分の肩に廻して胸元に引き寄せたカカシの手をやわやわと弄びながら、イルカも歌うように呟き、うつらうつらと眠る。 イルカはカカシが目を覚ましていて、今すぐにイルカを抱きしめようか、それともイルカが自分を揺り起こすまで待って、なかなか目の醒めないふりをしようか、そんな幸福な悩みに頭を巡らせていることを知らない。 END. |