エピローグ


本棚から抜き出した本を丁寧にダンボールにつめていると、パタパタと足音を立ててイルカがひょこりと顔を出した。
「カカシさん、お台所終わりました。 あとはこの部屋だけです」
「ん、ありがと」
「そっちの机、やってもいいですか?」
「うん、向こう行ってから片付けるから適当に詰めちゃっていいよ」
「はい」
頭巾を被り、エプロンを着けたイルカは既に組み立ててあるダンボールを持って机の横に立つと、引き出しを開けて中の書類をダンボールに詰め込み始めた。



イルカの2度目の帰還の時、何故か一緒に子供達まで付いてきた。
「世の中に出て修行をしてこいって」
「人の願いを叶えることをするなら、まず人を知れと」
「でもいきなり知らないところに行っても困るだろうからって、イルカ先生と一緒に来たの」
等々と子供達はもっともらしい事を言ったが、要するに心配した翁とやらに言われて付いてきたお目付け役だろう。
イルカが郷帰りする前に悩んでいた“イルカの事情を知っていてどちらが悪いとか関係なくイルカの味方をしてくれる人”が向こうからやってきてくれたので、助かったといえば助かった。
「翁は風邪だったんですけど、元気になるまで様子見ていたんで遅くなっちゃいました」
腕の中で嬉しそうに笑っているイルカを見て、笑い返すと子供達を部屋に招きいれた。

イルカと二人でいた時よりも騒がしくも楽しい毎日になった。
子供達は元気だし、イルカも楽しそうだし、みんなが嬉しいと俺も嬉しい。
ただ、狭い部屋に押しかけられたせいで、イルカと二人きりになることが不可能となった。
サクラなどは「お気になさらず、どうぞどうぞ〜」とか言い出しそうだけれど、流石に人前でイチャイチャするのは恥ずかしいし、子供の教育上よろしくない。
ナルトとサスケと一緒に雑魚寝しながらベッドの上で寄り添って寝ているイルカとサクラを見て、俺は決心した。

そして翌週、家を買った。

イルカと子供達を引き連れて不動産屋を回り、少し古いが、里の郊外にある庭付きの一戸建てを購入した。
純和風の家の部屋は全て襖で仕切られていて、居間は台所に近い一番大きな部屋とし、続きの二部屋を子供部屋、更に隣の部屋を俺とイルカの大人部屋、余った部屋は巻物などの荷物置き場とした。
そして家を買ってから最初の休日に引越しとなった。
正式な任務として引越しの手伝いを依頼したら何故かイビキ率いる暗部拷問部隊がゾロゾロとやってきて、子供達がえらくビビッていたのが笑えた。
「随分と静かになったけど、子供達はどうしたの?」
「イビキさん達と一緒に向こうの家に行きました」
「ふぅん、邪魔してないといいけどねぇ」
「大丈夫ですよ、みんな子供好きみたいだし、ナルト達も手伝いが楽しいみたいです」
笑いながら引き出しを開けようとして、イルカは「あれえ?」と呟きながらガタガタと机を揺すった。
「ん、開かない?」
「何かひっかかってるみたいでー・・・と、開いた!」
ガタンと大きな音を立てて引き出しが開くと、カタンと中からひっかかっていたものが落ちた。
「何だ、この箱」
イルカの手の中にある見覚えのある箱を見て、それが何なのか思い出して慌てて手を伸ばしたが、間に合わずイルカがパカリとその箱を開いた。
「・・・」
「あー、そのう、何ていうか・・」
目を見開いて黙り込んだイルカに、俺は赤くなる顔を俯かせて頭をかいた。
箱の中身は小人だったイルカと一緒に昨年願い事を書いた、短冊だ。
「前・・にさ、イルカが居なくなった時、イルカが居た証拠っていうの?そういうのが何もなくってさ。
 不安になっちゃって・・・、そしたらそれが見つかって」
上目遣いにイルカを伺うと、ぽかんとした顔のままだ。
「実は今年も短冊貰ってね、同じ事書いちゃった〜・・・・って女々しいかねぇ」
ハハハと笑って誤魔化そうとしたがいつまで経ってもイルカの動きが止まったままなので、ごめんね、捨てるからと謝り手を伸ばすと、イルカが勢い良く胸に飛び込んできた。
「わっ、イルカ?」
「カカシさん、俺、カカシさんが好きです」
「う、うん」
「大好きです!」
「うん」
「いつまでも、ずーっと一緒です」
「・・・うん」
「俺とカカシさんは家族です! だからずっと一緒に、ずっとイチャイチャするんです!」
「うん、うん、そうだね」
ぎゅっとしがみ付いてくるイルカを抱きしめて、肩に顔を埋めると滲んできた涙を誤魔化した。
「ありがとう、俺もイルカが大好きだよ」
「はい」
「ずっと一緒に、イチャイチャしようね」
「はいっ」
嬉しそうに破顔するイルカに、泣き笑いの顔のままそっと唇を寄せた。

「イチャイチャするのは結構だが、荷物の詰め込みは済んだのか?」
「わっ、イビキ?」
部屋の入り口で腕を組んで仁王立ちしているいかつい顔と、何時の間にかイビキになついてしまったらしい興味津々でこちらを見つめている子供達に苦笑いを返すと、荷物の詰め込みを再開した。



今日から、イルカと一緒に、新しい生活が始まる。



(終わり)
2009.05.03初出
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