【ボタン】


昔から『遠くに旅立つ人にボタンを贈ると幸せになれる』という言い伝えがある。
それに習って、最近では『任務に行く人にボタンを贈ると無事に帰ってくる』というのが里中で流行っている。
ただ、ボタンをもらえない人間には肩身が狭い。
ナルトは誰からもボタンをもらわなかったらしい。
サスケには共に任務に行くというのにサクラが渡していたが。
そんな話をイルカとしていた翌日。その日の任務は2泊3日の遠出だった。
7班が里の門の前に集合して、今まさに出発しようとしていたその時。
「ナルト!」
「……イルカ先生?」
息を切らして駆け寄ってくる姿に、何事かと思った。
よほど大切な用なのだろう。
「コレ!コレ持っていけ」
渡されたのは拳大ぐらいに膨らんだ袋。ジャラジャラと音を立てている。
「何、コレ」
「いいから。アカデミーに遅刻しそうだからもう行くぞ。任務、気をつけて行けよ」
「う、うん」
「カカシ先生。こいつらのこと、よろしくお願いします」
「はい、はい」
「それじゃあ」
そういってイルカはつむじ風のように走り去っていった。


「何だろ、コレ」
「開けてみたら?」
袋の中にはいっぱいのボタン。
「ボタンだ」
おそらく家中の服のボタンを引きちぎってきたであろうその量。
ナルトは少し泣きそうな顔をしたが涙は見せなかった。
誰よりも無事であることを祈っている、と。
強く願っている、と。
あふれんばかりの愛情。
それがあまりにも目に見える形になってあらわれたので、ナルトにとってよかったと思うべき場面で、嫉妬してしまう。
イルカが俺を好きなことを疑ったことはない。
ナルトのことを家族のように大事に思っていることも知っている。
それでもつい寂しいと思ってしまう。


ふとポケットに手を突っ込むと何か固い小さなモノが入っている。
なんだろう。
手にとって外に取りだしてみると、それはボタンだった。
コレは…
昨日のイルカのパジャマのボタンじゃないか!
「くくっ」
「やーね、カカシ先生。思い出し笑いはやらしーわ」
「変なのー」
「奴が変なのはいつものことだろう」
ボタンだけで幸せになるなんて信じていなかったのに。
本当にそうなった。
幸せになる、というのはそういうことなのだ。
特別のシルシ。
「ナルト。そのボタン、帰ってきたらちゃんとイルカ先生に返すんだぞ」
「うん、わかってるってば!きっとイルカ先生、着るものなくて困ってるよ。早く帰ってつけてあげなくちゃ!」
そうか。そういう意味も含まれているのか、これは。
「じゃあ、おれも早く帰らないとな!」
「えーーっ!!だれ、だれ!?カカシ先生にボタンを贈った人って!」
「内緒だ」
早く帰ってボタンをつけよう。
無事を願ってくれるあの人の元に帰ろう。


END
2001.11.11


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