とんとん、とまな板の上で踊る包丁。
じゅわーっ、と油で上がる音。
イルカ先生が夕飯の支度をしている。
それをいつも見ているのが俺の日課。
イルカ先生の姿をじっと見ていることができるのは嬉しいけど。
ふと、かまってもらいたいという欲がじわじわと心を蝕んでいく。
作られる料理は俺のためだと頭ではわかっていても。
口にすれば美味しくて幸せな気分になれると知ってはいても。
それでも、その手に触れられる食材に嫉妬する。
ねぇ、そんなのに目を向けてないで俺を見て?
俺に触って?
念じてみても、伝わったことなんてない。
それが悔しくて、揚がったばかりの唐揚げを指でつまむ。
「あっ」
ぺちん、と手を叩かれてこんがり揚がった鳥肉は皿へと落ちた。
「つまみ食いは駄目って言ってるでしょう?」
少し怒った表情のイルカ先生の顔が目の前にある。
よかった。
俺を見て、俺に触ってくれた。
目的は達成されて、上機嫌な俺。
「どうして、いつもいつも先に食べようとするんですか!」
まるで俺が意地汚いように言う。
違うのに。
「違いますよー。あー、ひどいな。手、赤くなってる」
叩かれた手がヒリヒリと痛む。
「お仕置きです」
ツンと顎を反らせる。
痛いけど、まあいいか。
可愛いこの人は俺だけのものだし。
「俺の楽しみを奪うからですよ」
「イルカ先生の楽しみってなんですか?」
なんだろう。
そんなの初耳だ。
「秘密です」
頬を赤らめてそんなことを言われたら、気になるに決まってる。
「えー。そんなこと言わないで教えてくださいよー」
イルカ先生の背中にへばりついて答えを強請る。
「もう!重いです」
「教えてくれるまで離れませんから」
それはそれでいいかも、と思っている自分がいる。
けれど、それを聞いたイルカ先生が慌てて「言います、言います」という。
ちぇっ、ちょっと残念。
もうちょっと粘ってくれていいのに。
「カカシ先生、食べるときすごく幸せそうな顔するでしょう。
それを見るのが俺の楽しみです。
だから俺の見てないところで勝手に食べて、一人で幸せになってたらムカツクんです。 俺の見てないところでつまみ食いは禁止です 」
え?それってつまり……
俺のこと見ていたいってこと?
食べてる俺の顔が好きってこと?
俺のこと大好きで愛してるってこと?
「えへへ。じゃあ、これからつまみ食いするときは、イルカ先生の目の前でしますね」
そうすればもっと俺のことを見てもらえる。
なんてステキ。
ぎゅう、と抱きしめて。
これからはもっともっとつまみ食いをしようと心に誓った。
END
2002.07.13 |