「アスマー。しばらくお前んとこに泊めて」
いつもお騒がせの張本人が、のんびりとそう言った。
今日は珍しくまともな用件で声をかけてきたものだ。
アスマは心の中でそう思った。
だがしかし、だからといってカカシ相手に油断は禁物。聞く方も身構えるというものだ。
「どうした?」
「今風呂を改装工事中なんだ。だからー」
「壊れたのか?」
「いや、檜の浴槽で露天風呂っぽくしたくてさ」
また意外なことを口にした。
そんなに風呂にこだわるタイプだったろうか。
家の風呂を改装するほどとは聞いたこともなかった。
「へぇ。お前、そんな風呂好きだったか?」
「違うよ、馬鹿。イルカ先生が湯治好きだって聞いて、これだ!と思ったんだ。温泉風の風呂があれば、俺んちに毎日入りに来てくれるじゃないか!」
「…………」
それはどうかな。
尤もな疑問だったが、力の抜けたアスマには、それを口にすることはできなかった。
どうせ言ったって聞かない人間だし。
「いやー、ホントは源泉を掘り当てようかとも思ったんだけどね。写輪眼もあんま役に立たなくて、温泉は見つけられなかったんだよー」
不満げに口を尖らせた。
「当たり前だ。っていうか、その口調からして試したんだな?写輪眼で源泉を探してみたんだな? 血継限界の力をそんなことに使いやがって。きっとうちは一族から呪われるぞ、お前は」
「何言ってんだ!写輪眼だってイルカ先生のためになら喜んで使われるに決まってる!」
イルカのためっていうか、お前の欲望のためだろうが。
それを口にするには、あまりにもカカシが真剣すぎた。
多分言ったら殺される、気がした。
「風呂ができたらイルカ先生を誘うんだ。ちゃんと銭湯並みに広く作っておいたから安心だ。最初は一人で入ってるところをちょっとずつ覗いて、慣れてきた頃に一緒に入るようになる。ふっふっふ、完璧な計画だ!」
毎日、毎日だぞ、と興奮気味のカカシを前に、アスマは戸惑っていた。
イルカにこの事実を教えるべきだろうか。
教えたことが判明すれば、多分俺は写輪眼に襲われるのは確実だろうし……どうするか。
アスマは、自分が犠牲になるか、イルカが犠牲になるか、風呂が出来上がるまで悩み続けるのだった。
END
2002.12.14 |