「それで、実はね。三代目の予定だったけど、人質役をイルカにやってもらおうかと思っているの」
「えっ。俺ですか?」
「そんな危険な役、誰がやらせるかーっ!」
カカシは、背後からイルカをぎゅうぎゅうと抱きしめて抗議する。
俺が守ると言わんばかりに大蛇丸から遠ざけようとしていた。
「だって、その方が緊迫感が増すじゃない?一旦それで里が悪に屈服して、それからっていう展開にしたくて」
「でも、三代目ならともかく人質役が俺じゃあ、里中が従うわけないでしょう」
「イルカだったら写輪眼二人と小狐がついてくるのは間違いわね」
「そりゃあ、イルカ先生が人質なら木の葉の忍び全てが従うさ!征服だって夢じゃないさ!でもなぁ、そんなことさせられるかっ」
納得いかないイルカと、口角泡を飛ばさんばかりに興奮しているカカシ。
対照的な二人を前に、大蛇丸はどうやって説得しようかと目を細めた。
「イルカ、映画なんだからそういう一見馬鹿らしい設定も必要なのよ。それに、監督の言うことは絶対なんだから、ね?」
「それは……大蛇丸様がそうおっしゃるなら、もちろん俺の力の限り頑張りますが…」
「木の葉の里のためにも頑張ってちょうだい」
「はい、わかりました」
イルカは簡単に説得されてしまった、あっさりと。
残りはカカシだけだが。
俺はそんな簡単にはいかないぞ、と睨み付けている。
そんなカカシの耳元にひそりと囁く。
「カカシ君。もしイルカが人質役をやってくれるなら、その危機を救った写輪眼のカカシとイチャイチャパラダイスな展開にしてあげてもいいかなぁー、なんて」
「イルカ先生とイチャパラ……」
陶然と夢見るように呟く。
そしてはっと目が覚めたように我に返った。
イルカの肩を前からがしっと掴み、宣言する。
「イルカ先生頑張りましょう!俺も気合い入れて頑張りますっ」
「はいっ」
してやったり、といった風情に大蛇丸がニヤリと笑う。
はっきりいって今回の映画には自分の命を懸けているといって過言ではない。
より面白くするためなら手段は選ばない、と周りの人間には迷惑なことを考えている大蛇丸であった。
こうして大蛇丸の思惑通り、事が運ぶと思われた。
人質を盾にするシーン撮影の日。
カカシ達は試験会場にいる者達が眠らされたふりをするものと思い込んでいた。
それが本当に幻術を使われ、眠っている。
どういうことなのか。
しかも人質はイルカに変更されたはずなのに、三代目のままだ。
「何やってるんだ、大蛇丸の奴」
「目が普通じゃないぞ。映画に賭ける情熱のあまり、自分が本当に木の葉の里の征服を狙う忍びだと思い込んでいるんじゃないか。他の奴らもどうも何かに操られてるようだし」
「マジか?」
「これは撮影どころじゃないな」
その言葉にカカシがぴくりと反応する。
「つーか俺のイチャパラはどうしてくれるんだぁー!!」
「監督がアレじゃあ無理だな」
ガイが冷静に判断を下すが、カカシはそれを否定する。
「絶対元に戻すっ!そしてイルカ先生とイチャパラ」
里の一大事にそれしか頭にないのか、はたけカカシよ。
「うむ。青春だな!」
「俺の全てを賭けてもやり遂げてみせる!」
いつものやる気のなさはどこへやら。
無駄に燃えているカカシの写輪眼には、もう夢のパラダイスしか写っていないのかもしれなかった。
果たしてカカシは無事大蛇丸を正気に戻すことができるのか。
イルカとイチャパラ映画を撮ることができるのか。
がんばれ!ぼくらのはたけカカシ。
今日もゆくゆくはたけカカシ。
END
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2002.04.06 |