イルカ先生、元気ですか。
　俺は元気でやってます。
　エロ仙人も元気です。元気すぎて困るくらいです。若いおねーちゃんを見かけるとフラフラついて行っちゃって、何度も野宿する羽目になってます。もうちょっとマジメにやってくれないと俺の修行がはかどりません。
　この前はせっかく貯めてあったガマ口さいふのお金を、エロ仙人が勝手に持ち出してぜんぶトバクでスラれ……

「だぁ〜駄目だ！　こんなこと書いたらイルカ先生が心配するってばよ！」
　ナルトは大声で叫んで書いていた紙を破り捨てると、丸めて放りだした。
　もう一度最初から書き直さなければならないのだが、紙を見つめて途方に暮れる。
「何書いたらいいんだろ……」
　直接会ったら話したいことは山ほどある。そしてどれだけ話が長くなってもどこへ話が飛んでも、イルカならいつも笑みを浮かべて最後まで聞いてくれるのだ。
　しかし、手紙を書くとなると勝手が違う。順序立てて文章を書くのはナルトにとって至難の業らしい。
「あ〜あ」
　ナルトは鼻の下と尖らせた唇の間に鉛筆を挟んだまま後ろに倒れ、畳の上に寝転がった。
「ただ元気にやってるって伝えたいだけなんだけどな」
　修行は厳しいけど辛くはない。強くなるために必要だとわかっているから。ただ辛いのはここは木ノ葉の里じゃないということ。側にいるのが自来也ただ一人だということ。
　早く里に帰って、イルカ先生と一緒にラーメンを食べたいなぁ。
　そう思った途端、腹がグゥと鳴った。
　そこへタイミングよく。
「お〜い、ナルト。飯食いに行くぞ」
　自来也が窓の外から声を張り上げている。
「わかったー」
　ナルトは鳴った腹に忠実に従い、てっとりばやく窓から飛び降りた。

　連れてこられたのはラーメン屋。
「え、ここって……」
　自来也はあまりラーメンを好まない。どちらかというと定食なんかを好む。なので、必然的にラーメン屋へ来る回数は限られていた。
「何でも今日はお前の誕生日だってな。イルカから手紙が来て『ここのは美味いから連れて行ってあげて欲しい』と頼まれたんだよ」
　ラーメン通は全国津々浦々のラーメン屋を知ってるんだな、と自来也は呆れたように笑う。
　誕生日を忘れないでいてくれたんだ。
　ナルトは思わず叫ぶ。
「イルカ先生からのプレゼントだ！」
「こら！　ここはわしの奢りだわい」
「だって、イルカ先生が頼んでくれたから奢ってくれるんだろ？　なら、イルカ先生から贈られたも同然だってばよ」
「そりゃまあ、たしかにな」
　納得したのか、自来也はあっさりと頷く。
　本当は一緒に食べるのが一番だけど、今はイルカお薦めのラーメンを食べられるだけでも嬉しい。
　目の前に運ばれてきたラーメンは、お薦めだけあってたしかに食欲をそそった。
「へへへ、美味そー。いっただきまーす！」
　パンと音を立てて合掌して割り箸を割る。
　後で手紙を書こう。
『ラーメンありがとう。俺はいつだって元気だってばよ』と。
　俺が手紙を書かない理由だってイルカ先生には丸わかりだから、そんな短い手紙でもきっと喜んでくれるはずだ。
　ナルトはそう考えて、勢いよく麺を啜った。