今日はうみのイルカの誕生日だ。
つきあい始めて様々な行事があったが、カカシはイルカが喜ぶ物を贈れた試しがない。高価すぎたり、ヘンテコな物だったり、必ず『返品してきなさーい!』と怒られるのだ。
今度こそは喜んでもらえる物を贈りたい、というのがカカシの切なる願いだ。今までの経験や市場調査・心理学まで分析を重ね、長い時間をかけて完璧な計画を練ってきた。
今年の俺は一味違うぜ!
カカシは鼻息も荒く、イルカの元へ向かった。
「イルカ先生、今日お誕生日ですよね。今からプレゼントを買いに行きましょう!」
「今から、ですか」
それでは今回カカシは、本人が選んだ品物に金を出す方式にしたのだろうか。イルカはぼんやりと考えた。
「買う物はおおまかに決まってるんです。ただどれを選ぶかはイルカ先生と一緒にじゃないと、と思って」
言われた意味はよくわからなかったが、とにかく一緒に行って選べばいいんだなとイルカは解釈した。
「で、どこへ行くんですか?」
「家電量販店です」
カカシの笑顔は胡散臭さ倍増だった。
手を引っ張られ、カカシを追うようにイルカも足早に歩く。
「家電って高いもの買うんじゃないでしょうね。今欲しいものなんてありませんよ!」
「今買わないと意味ないです。なんていったって今しかエコポイントが付かないんですから」
「エコ…ポイント?」
「そうです!」
温暖化の環境問題と景気対策を目的とする、火の国が定めたエコポイント制度。正直先行きが不安定なところもあるが、いろいろなポイントを溜めるのが趣味とまで言い切るイルカにとって、レアもののポイントは魅力的だった。
「本当はエコポイントに興味はあったんですが、中忍の俺にはなかなか高い買い物に縁がないので諦めていたんですよ」
イルカは嬉しそうに声を弾ませている。
ポイントのために不要な買い物までしてしまう本末転倒タイプなのは、カカシも今までの経験上よくわかっていた。これを利用しない手はない。ポイントが付くと言えば多少高い買い物をしても大丈夫という確信があった。
そうこうしている内に、さすが腐っても忍者、もう店に到着してしまった。
「えっと、まずはテレビ。地デジ対応のやつ。それとエアコンと冷蔵庫が欲しいんだけど」
店内に入ってすぐに店員を捕まえると、笑顔で案内してくれる。商品の説明をさせればどんなものでも欲しくなるという神業も披露してくれた。
「それじゃあ、次は洗濯機かな」
「え。まだ買うんですか」
「だってエコポイントが付くのは今だけなんですよ〜」
カカシがにこにこと笑顔で言うと、イルカもなんとなく納得してしまう。
しかし、店員は表情を曇らせた。
「あの、お客様。この商品にエコポイントは……」
「付くよねぇ?」
カカシは上忍の殺気を漲らせ、店員を黙らせた。そしてイルカに聞こえないよう、こっそりと耳打ちする。
「大丈夫、エコポイントなんか付こうが付くまいがかまわないから。付くってことにしておいてくれれば何でも買うよ。じゃんじゃん商品持ってきて」
ブラックカードをわざとちらつかせて見せる。
店員は、この上客を逃すまいと満面の笑みで応対した。
「こちらは今話題の商品でして」
「え。こんなものにまでエコポイントが付くんですか?」
イルカが驚きの声を上げる。
「はい。それはもう!」
大嘘だった。さすがはプロ。
あれよあれよという間に購入する物は山のようになった。
「カカシ先生、こんなに買ったらアパートに入りきらないですよ」
さすがに我に返ったイルカが渋り出す。
が、そう言うだろうことは想定内のこと。
「大丈夫です。俺に任せてください」
カカシは自信ありげに請け負うと、書類にサインをして自宅発送してもらう手配をした。
深々とお辞儀する店員に見送られ、店を出る。
イルカがアパートへ帰ろうとすると、カカシがそれを止めて違う道を指し示す。
「ちょっとこっちに寄ってもらえませんか」
「いいですよ」
まだ買いたい物があるのかとイルカは頷いたが、どんどん繁華街から離れていき、静かな住宅街へと入っていく。
ある家の前でカカシが立ち止まった。
「この家に用事ですか?」
イルカは誰の家なのか確認しようとして、表札を見る。
蒲鉾板よりも大きな表札には、きったない字でデカデカと『はたけカカシ うみのイルカ』と書かれていた。
「これ……」
「ナルトがね、俺が書く書くってうるさくて。汚い字だけど味があるでしょ?」
「でも……」
「買ったんです、この家。中古だけど木造のしっかりした造りだし、見た瞬間に此処に住みたくなっちゃって」
イルカは驚きのあまり目を大きく見開いてカカシを見つめる。
「誕生日プレゼントです。イルカ先生、誕生日おめでとう」
「カカシ先生……」
「本当は俺がそうしたいからで、プレゼントともちょっと違う気がするんだけど」
「いえ! 嬉しいです、嬉しいに決まってます」
「えへへ。よかった」
イルカに喜んでもらえた。大成功だ。
「でも。半分は俺が払いますからね」
「えええ。プレゼントだからいいですよ」
「貰うには高すぎます。これから一緒に住むんだったら尚更、俺にも払わせてください」
ね?と念を押されて、カカシも頷かざるを得なかった。
が、家電の代金はすべて自分が払うと約束し、なんとか贈り物の体裁は保った。
落ち着いてから、家の中を見て回る。
庭もあり、縁側も付いているという典型的な木造家屋だった。この広さなら犬も飼えるだろう。
「俺も気に入りました、この家。木造ってあったかい温もりがあっていいですね」
「そうですか! よかった」
「カカシ先生が自分で設計して建てるって言い出さなくて、俺もホッとしました」
「え。なんで?」
カカシのセンスではものすごい家が出来上がるに違いない、とイルカは確信している。だって布団が手裏剣柄ってありえない。あのセンスはどうかと常々思っている。口には出さないが。
「それより。早く引っ越ししないと、ですね」
「ああ、そうですね」
「今度の休みにちゃちゃっとやっちゃいますか」
「ナルトがシカマルたちにも声かけると言ってましたから、運ばせますよ」
「……それは、壊したりしないか監視が必要ですね」
元担任のイルカは、そっちの方が気苦労が絶えなくて大変かもしれないと思った。
「ま、大丈夫でしょ。壊したら給料から天引きするって言ってありますし」
「それなら少しは安心かな」
そんな話をしながら二人で笑い合った。
これから新しい生活が待っている。二人は縁側から見える夕日を眺め、その日の幸福を胸に刻んだのだった。
HAPPY BIRTHDAY!!
2009.05.30初出
2010.11.11移動
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