自席に戻っても溜息ばかりだ。
「カカシ。聞いたぜ」
アスマがニヤニヤ笑いながら近づいてくる。紅も一緒だ。
「お前、会議中に大告白したんだって? 会社中の噂だぜ」
「うるさいなぁ」
「まあ、うちの親父が反対するのはともかくとして。あれじゃあ良い返事が貰えるものも貰えなくなるだろうな」
「えっ、どうしてだよ!?」
「公衆の面前だからなぁ。周りに囃し立てられたら尻込みするのが普通だろ。それにふざけてると受け止められても仕方がないしな」
そんなことも考えなかったのか?と呆れた顔をされた。
ショックだ。
よかれと思ってしたことが、最悪の事態を招くかもしれないなんて。
もしかして俺のしたことは無謀だったのか。
「馬鹿だなぁ。なんだってまた会議の真っ最中に言ったりなんかしたんだ」
「だって、イルカさんがお見合いするって聞いたから慌ててさ……」
そうだ。それさえなければ俺だってこんな急いだりしなかった。
もっと雰囲気のあるロマンチックな場所で告白したいと思っていたさ。
「お見合い? そんな話は聞いたことねぇな」
「え。でもテンゾウが……」
と言いかけた時にちょうどその本人がやってきた。
「先輩! どうしちゃったんですか!」
息せき切って駆け寄られる。
この様子では会議室のことは知ってるんだなと思った。
「片想いの相手に振られそうだからヤケになったんですか?」
こいつまで俺の行動を馬鹿にするのかとムッとした。
別にヤケで告白したわけじゃない。なんとかお見合いを阻止したいという想いに駆られて告白しただけで、別に振られるのも決定事項じゃないんだぞ。
「いくら百合ちゃんがお見合いするからって……先輩らしくもない。相手から奪うぐらいの気概がなくてどうするんです」
社長にも気に入られているカカシ先輩なら絶対勝てますよ、とかなんとかテンゾウは鼻息を荒くしているが、それよりも聞き捨てならないことを言った。
「ちょっと待て。お見合いするのは誰だって?」
「何言ってるんですか、今さら。カカシ先輩の好きな百合ちゃんじゃないですか」
「誰それ……」
百合ちゃんって誰だよ。
「だって、秘書課で一番の可愛い子ちゃんといえば百合ちゃんでしょう?」
「知らねーよ」
「ええええ!」
こっちが『ええええ!」だよ。
つまり。
お見合いするのは秘書課のなんとかちゃんであって、イルカさんではないと。そういうことか?
「なんだ、そりゃー!」
思わず叫んだ。
「おま、お前っ……!」
お前の情報を信じて告白までしたというのに。間違いだったってー!?
だいたい勘違いも甚だしいぞ。一番の可愛い子ちゃんはイルカさんに決まってるだろ! この馬鹿!
「カカシはイルカがお見合いすると勘違いして告白したわけだ。あっはっはっ」
髭が隣で豪快に笑っている。
くそっ、人の不幸を笑いやがって。
「だいたい男が御曹司とお見合いするわけないだろうが。よく考えろよ」
そうか? イルカさんだったらありうるんじゃないか?
お見合いを強要したと思い込んでいた時は腹が立ったが、その御曹司の見る目だけは誉めてやろうかと思っていたくらいだが。
「カカシ先輩の好きな人が男だったなんて知りませんでした……」
「なんだよ、テンゾウ。お前のせいで今大変な事態に発展するかもしれないんだぞ。反省しろ!」
今さら惚けたことを言い出すテンゾウを怒鳴りつけると、反論が返ってきた。
「そんな! 紅さんが教えてくれたから俺はてっきり……」
そういえばそうだったっけ。
元はといえば紅が悪い。間違った情報をテンゾウに教えたせいだ。
抗議したが、本人は何処吹く風だ。
「あら。私は『カカシが秘書課で一番の可愛い子ちゃんが好きらしい』と言っただけで、別に百合ちゃんだなんて一言も言ってないわよ?」
「紛らわしいんだよ、紅は!」
「事態が急展開を迎えてよかったじゃない。私のおかげよ」
「そんなわけあるかー!」
告白できても本人に振られそう、では意味がないじゃないか。
だが、結局よく確かめなかったテンゾウも俺も悪かったと認めざるをえない。もっと慎重に行動していれば、と悔やまれた。
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2008.12.13 |