イルカに好きだと言われて信じられない思いだったカカシも、真剣な眼差しに見つめられ、どうしてそれが嘘だと思えるだろうか。自分が想っていると同じくらい想われているのだとようやく頭に浸透し始めた。そして、伝えなくてはならないことがあった。
「俺も初めて会った時から好きです」
カカシがそう言った時のイルカの笑顔は、今までのどの笑顔よりも輝いていた。
お互いの想いが通じ合った二人は、これ以上ないくらい幸せな表情で家路へと向かう。その間もいろいろとしゃべり続けた。
なぜイルカが『カカシが意地悪を言ったのか』と聞いたか、カカシは不思議に思って聞いたところ。なんでもイルカの中では、『強い人=カカシ』というのが当たり前のように決まっており、『強い人が好き=カカシが好き』と知られてしまい、からかわれていると思ったのだと言う。
それを聞いたカカシは、あまりの驚きに何もない道端で転びそうになったくらいだった。
「それ、なんか間違ってますよ」
「そんなことありません」
カカシが抗議しても、イルカはそれに関しては頑として首を縦には振らなかった。
「心が強くないと駄目なんです」
と、何度もイルカは言った。
カカシはどこが強いのかさっぱりわからないと首を傾げるが、以前アスマが言っていた『自分にとってはつまらないことでも、相手にとっては輝いて見えたりするモンだ』という言葉が脳裏を掠め、納得することにした。自分の中の何かがイルカにとっていつまでも輝いているように願いながら。
そうして二人で並んで歩いている時に、ふとイルカが思いついたように口を開いた。
「ねぇ、カカシ先生。多次元的平行世界って知ってますか?」
「多次元的平行世界?」
「そうです。この前、本で読んだんですけど。不思議なことに、いくつもの似たような世界が違う次元に無数と存在しているんですって。ほんの少しずつ何かが違う世界がいくつもいくつもあって、自分が今いるのはその中の一つの世界だそうですよ」
「へぇ。そうなんですか?」
カカシは感心しながらも少々疑わしげに話を聞いていた。少しずつ何かが違うとはどんな世界なのだろう、と。
「だからね。もしかしたらカカシ先生が上忍で、俺が中忍をしている世界があるかもしれませんよ」
面白いですよね、とイルカは笑って言う。
「うーん、そんな変な世界は想像もつかないですねぇ」
とカカシは首を傾げた。
イルカはしきりに、
「そんなことありません。それほど変じゃないですよ」
と言い募った。
カカシはこそばゆく感じながら、だいたい俺が上忍というのもなぁとこっそりと呟いた。
イルカ先生のこういうところはちょっと変わっているよな。俺を高く評価してくれるのは嬉しいけど、ちょっと買いかぶりすぎではないか。だいたいイルカ先生が中忍というのも考えにくい。いくらなんでもそれはちょっと無理があるに決まっている、とカカシは考える。
はたけカカシが上忍で、うみのイルカが中忍。そんな世界があるとも思えない。
けれど。
たとえ万が一そうであったとしても。
きっとイルカを好きになる自分は変わらないだろうと思う。それだけは間違いない。
イルカだとて変わらないだろう。こんな魂を持った人間がそうそう変わるとも思えない。変に偉ぶったり、格式張ったり、意地悪な人間になるわけがない。
いつだってイルカはイルカだ。カカシがカカシであるように。
「そんな世界は考えられないけど。でも……きっと」
「きっと?」
「イルカ先生が側にいてくれれば俺は幸せなんで、そうなっていたとしてもきっと大丈夫でしょうね」
イルカはカカシの言葉を聞いて、
「俺もです」
と嬉しそうに微笑んだ。
たとえどんなへんてこでさかしまな世界のあなたでも、きっと恋をする。
絶対にそれだけは自信がある、とカカシは笑いながらイルカの手を取り、大いに満足して歩き出した。
中忍はたけカカシのお話はこれでおしまい。
END
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2004.06.05
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