「未来から?」
不審げな声を隠そうとせず、カカシ先生は立ったままだった。それでも少しは警戒がゆるんだように見えたので、俺は昼間ちゃんと説明できなかった分を挽回しようと意気込んでしゃべった。
「そうなんです、10年後の未来からですって。カカシ先生は過去へ行く術があるのを知ってますよね。カカシさんはそれを使って極秘任務のためにやってきたんですよ。ね?カカシさん」
振り返ってカカシさんに同意を求めると、
「イルカさんの言う通りです」
とにこにこ笑っている。
それを見て、ちゃんと要点をまとめて話すことができたはずと少しホッとした。
しかし、カカシ先生はそれを聞いて眉を吊り上げた。
「イルカ先生!どうしてこんなわけのわからない奴を家に上げたりするんですか!」
「えっ、でも……」
カカシ先生が何を怒っているのかよくわからなくて戸惑ってしまう。
「……だって、この人ははたけカカシさんですよ?ほら、チャクラだって同じじゃありませんか!変なところなんて何も……」
改めてカカシさんとカカシ先生を見比べてみると、やはりカカシ先生の方が若いというのがよくわかった。でもだからと言って、この二人を見て全然違う人間だとは誰も思わないだろう。ただ年月を経た分だけカカシさんは穏やかな表情で年輪を感じさせるというだけだ。
「イルカ先生、こんな奴を信用しちゃいけません」
「そんな……」
「あの術は生涯で一回きりしか使えないもの。俺が任務なんかにそれを使うとは思えない。こいつは嘘をついているんです!」
カカシ先生は俺の肩をぐっと掴むと、カカシさんから庇うように抱き込んで身体をずらした。そして目の前にいるカカシさんを睨んでいる。
まさかこんな風な反応をされるとは思っていなかったので、どうしようとおろおろしているとカカシさんがゆっくりと近づいてきて口を開いた。
「じゃあ、お前だったらどんな状況なら術を使うの?」
「え……」
意外な問いのせいでカカシ先生が怯んだ隙に、俺はいつのまにかカカシさんの腕の中にいた。正面にいるカカシ先生は悔しそうに睨んでいる。
さすが上忍の人たちはスピードが違う!と感心していたら、カカシさんがまたのんびりと口を開く。
「そういえば、お腹空きましたねぇ。晩飯にしませんか?」
「あっ、そういえばそうですね」
気づけばもうこんな時間だ。いろいろあってすっかり忘れていたけれど、いつもならとっくに夕飯を食べている頃だった。カカシ先生だって黙っているけれど、きっとお腹が空いているに違いない。
「お腹が空くとイライラしますからね。イルカさんが料理している間に、こっちの方は俺が説得しておきますから」
カカシさんは『こっち』とカカシ先生を指差した。
きっとカカシさんなら俺と違ってうまく説明して丸く収まるはず。そう納得した。
「わかりました。じゃあすぐに作ります」
この場はカカシさんに任せて、俺は台所へと向かう。
せっかくだから夕飯はサンマの塩焼きにしよう。
我ながらいい考えだと悦に入り、できるだけ手早く夕飯の支度に取りかかることにした。
できあがった料理をお盆に載せて運んでいくと、二人の話し声が聞こえた。『じゃあパックンの癖は知ってるか』とかなんとか。きっとカカシ先生が自分しか知らないことを確認しているのだろう。
まだ夕飯にするには少し早かったかなぁと思いつつ、「ご飯ですよ」と声をかける。
「ああ。ありがとうございます。俺も運ぶのを手伝いますよ」
カカシさんはそう言って、立ち上がった。
二人で台所に戻って、ご飯茶碗を手渡す時にカカシさんが少し眉間に皺を寄せて言った。
「イルカさん、ごめんね」
いきなり謝られて驚いた。どうしたんだろう。カカシ先生を説得できなかったんだろうか。
「極秘任務なんて嘘をついていて」
申し訳なさそうに目が伏せられている。
なんだ、そのことだったのかと安心した。
「いいんです。だって、きっと任務よりも大事なことなんでしょう?」
カカシさんが少し驚いたように瞼を持ち上げる。
「三代目から、ヘタしたら帰れなくなる術だって聞いてます。そんな危険を冒してまでここにきたのは、よほど大事なことがあったからじゃないかと思っていたんです。だから、それがたとえ任務じゃなくても、俺に手伝えることがあったら何でも言ってください」
その大事な何かのために役に立てるといいと思う。
「イルカさん……」
「あ、俺口は堅いですから!あの、本当に……」
「ありがとう。信じてくれて嬉しいです」
カカシさんはそう言って、本当に嬉しそうに笑ったのだった。
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2005.02.26 |