【主に泣いてます】

携帯版40404hitリク(のりぃ様より)「ミナトとクシナにイルカと仲良し計画を邪魔されてイライラするカカシ」


「ん? どうしたんだい、カカシ」
一緒に歩いていた弟子がいつの間にか立ち止まってしまったので、ミナトは振り返った。
カカシはぼんやりと立ち尽くしており、その視線の先には黒い髪をした子供が原っぱで一人遊んでいる。
転んだのか汚れた手で顔を拭い、逆に泥がついているところが微笑ましい。いかにも元気に外で遊んでいますという見本のような子供だった。
「あれ? あの子、もしかして海野さんとこの……」
「先生っ。あの子の名前、知ってるんですか!」
ぼんやりしていたカカシが食い付いてくる。
心なしか頬が赤く染まっていて、何事にも無関心が多い弟子に慣れているミナトは驚いた。
「え、もしかしてカカシ……」
「なんですか」
「恋しちゃってる?」
「なっ!」
言われた途端、さらに真っ赤に染まった顔が何よりもそれを証明していた。
「うんうん、そっかぁ。一目惚れかぁ」
大きく頷く師匠に蹴りを入れたいとカカシは願ったが、どうせ回避されるのは目に見えている。諦めて、溜息を吐きつつ原っぱへと視線を戻した。
子供は止まった虫に触ろうとそっと手を伸ばしている真っ最中だった。
「声をかけてみたら?」
「え」
「うん、それがいいよ。子供は子供同士、行っておいで」
カカシは不安そうに師匠を見上げたが、ミナトの笑顔は有無を言わせなかった。背中を押されてしまえば、本人にその気がなくともほとんど上司命令と言っていい。
しかたなくカカシは足を踏み出す。
「あの……」
カカシが声をかけると、子供は顔を上げた。
黒い大きな瞳にじっと見つめられ、カカシは怯んだけれどさらに近づこうと試みた。しかし一歩進んだ途端、猛烈ダッシュで逃げられた。
たかが子供の足、もちろんすでに中忍だったカカシに追えないわけがない。わけがないのだが、そこは逃げられたという精神的ショックで動けなくなったのだった。
子供はしばらくして振り向くと、
「とーちゃんが知らない人と口きいちゃダメだっていったー!」
と叫んだのち、走り去った。
一応理由を説明してくれたということは、好意的と見えなくもない。
が、逃げられたことに衝撃を受けたカカシにとっては、あまり意味がなかった。ほとんど泣き出しそうな勢いで俯いている。
「あー、そのマスクが怪しく見えちゃったのかも」
師匠は師匠で容赦がない。
何も追い打ちを掛けなくとも、と見ていたら誰もが思っただろう。
自分が行けと言ったくせに! もう先生の言うことは絶対聞かない!
と、カカシは握り締めた拳を振るわせながら思った。


その後。カカシは事ある毎に黒髪の子供を見に行った。
名前は海野イルカだということも自力で調べたし、どこに住んでいるか何が好きかも知っている。ある意味ストーカー。
が、それを止めるべき大人は『恋ってそんなものだよねぇ』と頷いたりなんかして、注意することもしない。それどころか『うちの子が恋しちゃっててー』とか自慢げに言いふらす始末。師匠馬鹿だった。
「おっはよう。ミナト、カカシ」
「おはよう、クシナ」
「おはようございます」
朝の挨拶をしてきたクシナに、カカシはぺこりと頭を下げる。
「今日のミナトの運勢は絶好調。ラッキーカラーは黒!」
びしっと指差された。普通ならば指差すなと怒りそうなものだが、ミナトは恋人の奇行もにこにこと見守っている。
「そうなんだ、ありがとうクシナ」
「どういたしましてっ」
機嫌良く返すクシナは、くるりとカカシに向き直った。
「最近私、占いに凝ってるの。カカシのことも占ってあげるってばね!」
「え、俺はいいです……」
カカシは遠慮しようとしたが、クシナは自分の占いを証明したくてたまらないらしく、逃げようとしても無駄だった。
「カカシはミナトの可愛い弟子なんだから、任せなさいって。たしか乙女座のO型だったよね?」
クシナは分厚い本を片手に、地面にガリガリとホロスコープを書き始めた。
「うん、今日は恋の告白のチャンスだって!」
「え」
たかが占いと言えど、ずっと声をかけられないままのカカシにとっては、後押しされているようで悪い気はしない。
「へぇ、よかったじゃないか、カカシ」
「ラッキーカラーはシルバー。間違いないってばね」
クシナが自信ありげに宣言する。
「完璧だね」
ミナトはぐっと親指を立てた。
「じゃあ、さっそく行ってみようか」
「は?」
「ほら、ついていってあげるから」
占いは占いであって必ず実行しなければならないものではない。というか、チャンスが巡ってきたと感じれば本人が勝手にするだろう。たとえ告白すると決意したとしても、他人にいや家族であろうともついてこられて告白なんてできるわけがない。
結構ですと言いたかったが、無駄に上忍、一度こうと決めたことに逆らえるわけがなかった。
カカシはほとんど引きずられるようにして連れていかれる。
アカデミーに通う途中なのだろうか、目当てのあの子は元気よく歩いていた。
「イルカくん?」
ミナトが名前を呼ぶ。
またイルカが逃げてしまえばいい、とカカシは思っていた。だってイルカは知らない人とはおしゃべりしないのだから。先生だって痛い目に遭えばいいんだ。
先に逃げられたカカシは優越感すら抱いていた。
が、しかし。
「わぁ、木ノ葉の黄色い閃光だー!」
瞳をキラキラと輝かせ、駆け寄ってくるイルカ。
その姿にカカシはショックを受けた。俺だと逃げて、先生だと喜んで寄ってくるだなんて!
そんなカカシの衝撃も知らず、イルカは子供らしく木ノ葉の英雄に質問を浴びせかけている。興奮で少し頬が上気しているのも愛らしい。
ミナトもミナトで、こんなあからさまに好意を示されると、もっと喜んでもらいたくなる。つい抱き上げるときゃーと歓声をあげて喜んでくれるので、たかいたかいまでしてしまう。
それは『遅刻するから』という理由でイルカが慌てて駆けていくまで続いた。
結局イルカはカカシのことなどまったく見なかった。むしろ邪魔だと思って視線を送ってくれた方がまだマシだった。
告白するはずが、存在すら認識されずに終わるとはどういうことだろう。
呆然と立ち尽くすカカシ。
「私の占いもまだまだだってばね」
クシナが自分の頭を小突く。
「おかしいな。クシナの占いはよく当たるのにねぇ?」
ミナトは首を傾げたが、問題はそこではないのだ。何の慰めにもなっていない。
「先生も占いも嫌いだ……」
とカカシは呟くぐらいしかできなかった。


END
2010.11.27


●Menu●