【愛は噂や嘘よりはやく走れない1】

参拾万打キリリクSS(ゆうみ様より)『イルカ→カカシの片想いカカイル。ラブレターを渡そうとして妨害に遭うイルカ』


カカシと話していると、周りがささやきを交わしているのが分かる。受付であろうと廊下であろうとどこであっても。
それをできるだけ平気な顔をして無視をする。それが最近のイルカの日課だった。
ひそひそと交わされる言葉は、内容まで聞こえないのが唯一の救いだ。
元暗部のエリート上忍と親しく会話する中忍。身分をわきまえていない。そう言われているのだろう。
ナルトの担当教官になったカカシが話しかけてきたときには、イルカだって驚いた。
あの『写輪眼のカカシ』がしゃべりかけてくるなんて。
よく笑う上に気さくな人だったので二重に驚いた。
本当は元暗部ということで少し偏見を持っていた自分を恥じた。
心配していたナルトへの態度も、冷淡に蔑むようなこともなく、ごく普通の上忍師としてどころかそれ以上に対応してくれてナルトにも懐かれている。それを知った時どんなに安堵したか。
それどころかイルカがナルトの様子を尋ねると、毎日の出来事まで親切に教えてくれて。忍びとして強い上に優しい人だった。
よく飲みに行ったりもした。
カカシといると話題に事欠かないし、楽しい。
今ではお金が勿体ないから、という理由でイルカの家で夕飯を共に食べるようにすらなった。
額あてと口布をはずした顔を見たこともある。ナルトはまだ見たことがないと言っていたのに。
かなりの男前でさすがにくノ一達が騒ぐだけはあると思った。
でもそれよりも笑顔がいつも嬉しそうで、ああいいなぁ、と思ってしまう自分がいることに気づいた。
側にいるだけでなんだか幸せが伝染しそうな微笑みを、いつでも見ていたいと願っている。毎日だって会いたいと思うし、別れる時は離れがたくどうしようもなく寂しいと思う。
すぐ側にいるだけで胸が高鳴ってどうしようもない。笑ってもらいたくて一生懸命に話題を選んだり。嫌われたくないと思っている。
それらを冷静に分析すると。
もしかして俺はカカシ先生に恋している!?
初めは自分でも信じられなかったが、どうも間違いないらしい。これは恋してるんだ。
そう自覚した頃、イルカはようやく周りの様子が目に入るようになった。
カカシといるとどうも周りが騒がしい。周囲の視線が集まっているのが分かる。
報告書を受け取った後に同僚が「何を話していたのか」と聞いてくることもあった。
そこにいたってようやく、カカシと自分が一緒にいることは周りを不愉快にさせているのだと知った。
ショックだった。
自分は不釣り合いだと言われているのだ。
女ばかりではなく男にも人気のあるカカシ。
よりどりみどり選びたい放題で何の不自由もない上忍が、自分を好きになってくれるはずがないという事実に深く傷つけられた。
しかし一度自覚してしまった恋心がすぐに消えるはずもなく、毎日受付所で会うだけでも幸せだと思うようにしていた。


●next●
2006.07.22


●Menu●