「え、どうして……?」
なんでまた俺なんかを知っていたんだろう。上忍のカカシ先生が一介の中忍を知る機会などあっただろうか。
「あー、うーん。きっかけはナルトだったんです。アカデミーに入学したと聞いて、その様子を覗きに行ったことがあって。そのときから担任はイルカ先生だったでしょう?」
「ああ!だから」
それなら納得がいく。
あの頃は、入れ替わり立ち替わり人が見に来ていたように思う。もちろん子供たちにはわからないよう気配を消していたけれど。
カカシ先生は覗いていたという行為が躊躇われたのか、しばらく押し黙った。
「えー、それで、子供たちと笑ってる姿に一目惚れというか。いや、もちろんそれだけじゃなかったですよ?」
あたふたと言い訳する姿を見て、あ違った、照れていたのかと気づく。
と、そこまでぼんやり考えて、自分の連想に驚いた。
照れてるってなんだ。まるでカカシ先生が俺のことを好きみたいじゃないか!
でも、なんだかそんな言葉も聞いたような気がする。ああ、なんか頭の中がぐるぐるする。
「……で、それからずっと好きでした。今度、ナルトの上忍師になれると聞いて、これはお近づきのチャンスだって狙っていたんです。どうやって話しかけようかとか、どうしたら良い印象を持たれるだろうとか、どうやったら好きになってもらえるんだろうとか、ずーっと悩んでいたんですよ。それなのにあなたが簡単に『好き』だなんて言うから……そんなの信じられますか!」
「! か、簡単じゃなかったです!」
聞き捨てならないことを言われた。
簡単に告白したわけじゃない。俺だって悩んで、すごい覚悟をしていったつもりだ。それなのに。
拳を握りしめて力説されても困る。
「だって考えてもみてください。ずっと好きだった人にいきなり好きだなんて告白されて、はいそうですかって納得する方が無理ですよ」
たしかに逆の立場だったらと想像して、信じられないのももっともかもしれないと思った。
カカシ先生に急に告白されたら夢を見ているのかと思うだろう。
「じゃあ、あのときカカシ先生はどう思ったんですか?」
「いや、新手の罰ゲームかも、と……」
「なんですか、それ」
いったいなんでカカシ先生に告白するのが罰ゲームになるというのだろう。
「だから、すぐ信じろっていう方が無理ですって。あの時はどうしようもなく不安で、好きな理由が知りたくて仕方なかった。たとえば今少しでも好きでいてくれるなら、理由がわかればそれに縋って生きていこうか、なんて思っていたんです」
思わず吹き出してしまった。
「カカシ先生って、案外変な人ですね」
「え。嫌いになりました?」
カカシ先生が慌てて聞き返してくる。
「いいえ。だって俺の好きな理由は『なんとなく』ですからね」
そう言うと、安心したように笑った。
「俺もですよ」
その答えを聞いて、俺も嬉しくなって笑った。
理由はもうどうでもいい。今ここにいてくれればそれでいい。
そう願っている。


END
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2003.12.27


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