「カカシ、カカシ! どれがいい?」
こんな乳脂肪のかたまりのどこがいいんだろう。
という正直な感想は、ショーケースの見本の前で瞳を輝かせているイルカにはまさか言えず。
「うーん。どれでもいい……じゃなくて、全部美味しそうで迷って決められないから、イルカが選んでよ」
「え、いいの!?」
「うん」
「えっとね。どれも美味しそうだけど、イルカはやっぱり苺が一番美味しいんじゃないかと思う」
遠慮がちにちらりとこっちを伺う。
たぶん、苺を選んでくれたら嬉しいけど、他のを選んでもそれはそれでいいし、でもでもやっぱり苺がいいかも。というジレンマが伝わってきて、なんだか楽しい。
イルカと一緒にいると、いつも楽しいことばかりだ。
「じゃあ、苺の1つ」
俺の言葉にほっとした後、自分の背より高いショーケースの上から早く出てこないかと待っている姿さえ可愛い。
ようやく出てきたくれぃぷを見て、驚きと喜びが混じったような表情で眺めている。それを受け取り、道を歩きながら食べることにした。
早く食べたいんだろうな。
でも俺が食べないと言い訳がなくなって買い食いなってしまうため、期待の眼差しで見つめらながらじっと待っている。
甘いものなんて食べたくもないけど、それでもイルカが待っていると思えば一口ぐらいしかたのないことだ。
できるだけ皮だけを目指してかぶりつき、
「もういいや」
と、イルカにくれぃぷを手渡した。
「え!もう食べないの!」
イルカは驚いて目をまん丸くして叫んだ。
「うん。ちょっと食べてみたいだけだったから。悪いけど残りはイルカが食べてね」
さすがに一口だけで渡すのはマズかったかとも思ったが、甘ったるいクリームはいらないので、強引に手渡す。
イルカは少し迷っていたが、それでも目の前にある誘惑に負けたのか、思い切って食べ始めた。
「美味しい!」
イルカは夢中になってかぶりついている。なんかそんなに幸せそうに食べられると、くれぃぷって代物も本望だろうというくらい。本当に美味しそうに食べていた。
あっという間にペロリと平らげてしまってから、イルカはハッと気づいて俺を見た。
「ごめん、カカシ!全部食べちゃった!」
「いいよ。残りはあげるって言ったんだから」
「でも……」
しょげているイルカを見ると、慌てて食べていたので口の周りに生クリームがくっついていた。顔を近づけて、舌でそれをペロリと舐め取った。
「うん。美味しかった」
さっきは何も思わなかったのに、なぜか今は美味しいと心から思えた。
イルカはといえば、カーッと顔を赤くして少し震えていた。
「カ、カカシっ!…なんでそういうことするの!」
あ、怒ってるかな?
いや、どっちかというと恥ずかしいの方かな?
じゃあ、大丈夫かな。本気で怒るとなかなか許してもらえないけど、そうじゃないならイルカはしつこく怒ったりしないし。
「だって、俺の買ったくれぃぷだよ」
と平然とした顔を装って言ってみる。
「それはそうだけど……」
へにゃっと眉を寄せて口ごもるイルカ。
「じゃあ、早く帰ろう。家に帰ったら宿題手伝ってあげるから」
そう言うと、イルカはもうさっきのことは忘れているかのように喜んだ。
「ホントに? あのさ、あのさ。やっててわからないところがあるんだ。ずっとカカシに聞こうと思ってて…」
「アカデミーの先生には聞かないの?」
「だって、カカシの方がわかりやすいし、上手いし、強いんだもん」
イルカが誉めてくれる言葉はすごく好きだ。真っ直ぐで何の含みもなく言われるから。
だからイルカと一緒にいるのは楽しい。いつまでも一緒にいたいと思う。
「じゃあ、家まで走って帰ろう。競争だ」
「あ、待って!カカシずるいー」
イルカのペースに合わせて、あまり引き離しすぎない程度に力を押さえて走り出した。
家までは大した距離ではないから、後ほんのちょっとで辿り着く。そこの角を曲がってもう少し。
これがいつもの帰り道。
楽しくて笑ったことしかない帰り道。
END
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2003.11.29 |