俺の愛は、かなり誉められてもいい気がしてきた。
毎日毎日そのヨーグルトは食卓にのぼる。
「イルカ先生……」
「食べ続けないと効果ありませんからね」
笑顔と共に差し出されたヨーグルト。激辛ワサビ入りの。
それを食べ続けるのは、ひとえにイルカ先生を愛しているからだ。でも愛って辛い。いや、『からい』じゃなくて『つらい』。
鬱々としながらイルカ先生の帰りを待っていると、すごい勢いで扉が開かれた。
「カカシ先生、朗報です!」
「はい?」
「つくしが効くんですって! もう、知らなかったなぁ、つくしが花粉症に効くなんて。あれなら今ならどこにでも生えてますよ。これから摘みに行ってきますから待っててください」
「え、え。イルカ先生、なにも今すぐじゃなくてもいいんですよ……」
別につくしなんていらない。どうでもいいです。
「何言ってるんですか。花粉症のせいでなかなか眠れないのは知ってるんですよ! こういうのは早い方がいいんです」
えー? 夜眠れないのは別に花粉症のせいじゃなくて、たんにワサビの後遺症ではないかと俺は思うのだが。
だが、そんなことを言えるはずがなく「はあ、まあ」と曖昧に答えているうちに、イルカ先生は外へ飛び出していってしまった。
あああ。
そこまでしなくていいです、というその一言が言えない。
しばらくして帰ってきたときには、手に山盛りのつくし。
「このつくし、どうしましょうか。思い切って天ぷらにします?」
「いえ、何も思い切らなくても」
天ぷらはごめんだ。
だが、いまだ天ぷら嫌いだとは言い出せない意志薄弱な俺。好き嫌いなど無きに等しいイルカ先生に何かを嫌いなどと言えるはずがあろうか。
なんとか天ぷらを回避できないものかと頭をひねる。
「ああ、ほら! エキスを摂取すればいいんだから、乾燥させてつくし茶にしましょ。ね?」
だから、どうかお願いです、お茶にしてください。
「そうですねぇ、そうしましょうか」
俺の真剣な気迫が伝わったのか、願いは叶えられた。……かのように見えた。
しかし。
「でも乾燥させるには時間がかかりますから、それまではおひたしにしてヨーグルトに混ぜときますね!」
その笑顔がこれほど遠いと感じたことはなかった。
ああ、サクラ。
俺は今『嫌いなものは』と聞かれたら『ワサビつくしヨーグルトだ』と答える自信があるぞ。
でも今この瞬間に聞いてくれる者など誰一人としていない。


ヨーグルトかワサビか、はたまたつくしが効いたのか。イルカ先生の愛情のおかげか。それとも俺の身体がこれを食べないためには治るしかないと判断したのか。
ともかくおかげで、花粉症は鳴りを潜めるようになった。
めでたしめでたし?


END
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2006.04.15


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