そこへ騒々しい声が遠くから近づいてくるのが聞こえた。
「イルカ先生、一楽行こうってばー!」
大きい音を立てて戸を開け放ったのは、うずまきナルト。
イルカの可愛い元教え子の出現に、緊迫感がさらに高まる。強敵だ。
今日の夕飯をイルカと一緒に食べられる幸運に恵まれるのは、一体誰なのか。予測不可能だ。
「ナルト。一楽は昨日行ったばっかりだろ」
「ええー。今日も行こうよ、イルカ先生ー」
イルカの袖を引っぱって誘いをかける。
「こりゃ、ナルト!二日続けてラーメンとは何事か!」
ラーメンというメニューよりも、二日続けて一緒に夕飯と言うところが一番の問題なのだが、そこは知恵のある年寄り、上手く誤魔化しつつその提案を退けようとしていた。
そこへすかさずヒアシがイルカを誘う。
「私と一緒に天ぷらを」
「みんなで中華料理がいいわよねぇ?」
「いや、焼き肉だ」
「儂とカニを」
「じゃあじゃあ、ハンバーグがいいってば!」
負けるものかと口々に繰り出される誘いに、イルカは困っていた。
一度にそんなにたくさんは食べられないし。
誘われた全員の望みを叶えたいと思っているところが、心優しいイルカの好かれる要因ともいえよう。
「イ、イルカっ。俺達中忍仲間で飲みに行かないかっ」
死ぬ気覚悟で同僚まで参戦する始末。
事態は混乱の真っ只中だった。
その時。
誰もが聞きたくないと思っていた浮かれた声が部屋に入ってきた。
「イルカ先生ー!あなたのはたけカカシが帰ってきましたよー」
「あ、カカシ先生!」
昨日の朝から少し遠出の任務に就いていたカカシが帰ってきてしまったのだ。
三日はかかるだろうと言われていた任務だった。
一日目の夕飯はナルトに取られてしまった。
だから二日目の今日の夕飯は!と皆意気込んでいたというのに。
「ああ!32時間と58分とんで41秒ぶりです。会いたかったー!」
カカシは目にも止まらぬ速さでイルカに抱きついた。
その41秒っていったい何なんだ。
そんな周囲の抗議は虚しく、カカシやイルカにはまったく関係ないようだった。
「早かったんですね。てっきり任務が終わるのは明日の夜遅くになると思っていました」
「イルカ先生に早く会いたくて、頑張ったんですぅ」
「お疲れさまでした」
猫のようにゴロゴロと懐くカカシの背中を、よしよしと撫でる。
「お腹空きました。早く帰りましょー?」
「はいはい」
イルカはこちらを向き、ぺこりと頭を下げて言った。
「すみません。カカシ先生が帰ってきたので今日は自宅で夕飯を食べます。誘ってくださってありがとうございました」
はたけカカシ、あっさりと夕飯の権利を奪っていく男。
例えはらわたが煮えくり返りそうであっても、イルカスマイルできっぱりと断られてはこれ以上何も言うことはできなかった。
全員涙を飲んで諦めるしかない。
「それじゃあ、お先に失礼します」
「あ、忘れてました。報告書出してからすぐ追いつくんで、先に歩いててください」
「はい」
イルカは素直に先に部屋を出ていった。
カカシはというと、報告書を出し終わり、今まさに扉から出ようとする前で立ち止まり、振り返った。
「まったく。人の奥さんにちょっかいかけるのは止めてもらえませんかねー」
凄まじい殺気とチャクラがその場を凍りつかせた。
もしかして全員皆殺しか?と緊張が走る。
しかし、膨大なチャクラもあっという間に消え去った。
「ま、いいけどね。どうせイルカ先生は俺じゃないと駄目だしー。さ、早く帰ってイルカ先生の手料理食べよー♪」
三日月型に細められた右眼に、浮かれまくった声。
そんなものを跡に残して、カカシはさっさと出て行ってしまった。
残された受付所には『はたけカカシめー』という声なき声が充満し、涙で池が出来たとか出来なかったとか。
END
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2003.04.05 |