本日の任務は猫の捕獲だった。七班全員が満身創痍になりながらも捕まえたデブ…いやぽっちゃりした猫は、その図体にかかわらず素早かった。そのため皆疲労困憊で家路へ着いた。
俺はその後ろ姿を見送った後、任務報告書を出しに行くという一番面倒な作業を無事終え。いや、無事と言えるかどうかはあやしいものだが。それはともかく、これからすることもなく暇だなぁとぼんやり歩いていた。
そんな時、前方から知っている気配が近づいてくるのを感じた。
あれはアスマと紅だ。
「おう、カカシ」
「お疲れ〜」
「七班はもう終わったの?」
どうやら今日は八班と十班の合同任務だったらしく、これから一緒に報告だと言う。
「葡萄農園の手伝いはいいんだが、人数集まると五月蠅いのなんのって。ホント勘弁して欲しいわアイツら」
「ああ、もうそんな時期か」
収穫やら秋の味覚狩りの下準備やらで任務が殺到し、気軽に使える下忍はこの時期忙しい。
今日はあっちの農園、明日はこっちの田んぼ。農作業は持久力と忍耐を要する任務だが、おまけで現物支給されたりするので子供たちも張り切ったりする。
「梨果樹園も今忙しい時期でしょう? アンタのところと合わせて三班合同もありうるかもね」
「山向こうのは先週うちの班が行ってきたぜ」
「じゃあもう少し経ってからかしら」
互いの情報交換をし、しばらくは鍛錬する暇もないくらい忙しいらしいと愚痴をこぼす。
上忍師になってからの日常だ。
殺伐とした実力主義の暗部時代と比べたら、まるで違う日々。
「そういえばカカシ。お前今日誕生日じゃなかったか?」
「あら、ホント。今日15日じゃない」
「あ〜」
言われてみればそうだった。
別にどうでもいいけど。産まれた日がどうだというのだろう。
「お祝いしないとね」
「いいよ、別に」
「そうはいかねぇよ。今日は酒々屋で祝ってやらんとな」
「そうそう」
何か理由をつけて飲みに行きたいだけじゃないか、このザルどもは。
内心そう思いつつ、口には出さなかった。
あれよあれよという間に飲みに行くことが決定し、二人は報告してくるからちょっと待ってろと言い置いて建物の中へと入っていった。
待つ間暇だったので、ぼんやりと外を見つめていた。
あ。遠くに見えるのは、たしか『イルカ先生』だ。
ナルトたちのアカデミーの元担任で、ラーメンが大好きな先生。子供たちの情報のおかげで、今では俺はイルカ通とも言えるほどになっていた。
どうやらアカデミーの子と途中まで一緒に帰るところらしい。
子供がなにやらイルカ先生の耳元に口を寄せてしゃべっている。きっと彼にとっては内緒話なのだろう。
くすぐったそうに肩を竦め、それからイルカ先生はにっこりと笑った。
「そっかぁ、今日誕生日だったのか。先生知らなくてごめんな。誕生日おめでとう」
くしゃりと子供の頭を掻き回す手。
おめでとう。
おめでとうか。
暖かく優しく響く言葉。
それは俺に向かって言われた言葉ではなかったとしても。
祝福は俺の中を満たした。
真っ赤な夕焼けが辺り一面を赤く染め、淡い紫色の空が次第に群青色に変わっていく。その風景を眺めていたら、まるで夕日に向かって歩いているかのような二つの影もいつの間にか消えていた。
「カカシぃ、飲みに行くぞ」
「はぁ〜いはぁ〜い」
何度か名前を呼ばれていたのに気づき、慌てて返事をする。
「なぁに? すごいご機嫌じゃない。何かいいことあった?」
「ん〜。ちょっとね」
ささやかな、ほんのささやかないいことだったけれど。
思いがけない事だったから、得した気分だ。
誰かに向かって言っただけの言葉でもこれほど心が浮き立つなら、正真正銘俺自身に言われたらどうなるんだろう。まだ今の自分には想像もつかない。
今度は直接言ってもらいたいなぁ。
そんなことを願った誕生日だった。
END
2007.09.15
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