それからはカカシ先生とは昼間も親しく話をするようになり、二人で飲みに行くまでになった。
飲みに行けば、当然食べるために口布を取るのはもちろんだが、額あても取って食事するのが習慣だった。
一度見られたことで安心しているのか、カカシ先生は写輪眼を隠そうとはしなかった。
表情や仕草を間近で見るようになると、細かな心情の変化などが少しながらわかるようになってくる。
平然とした顔をしているけど、結構ムッとしているとか。
今のは目が笑っていなかったとか。
いつも笑っているけど、さらに嬉しいようだとか。
ほんの些細な視線の動きや、口の動きで感情を読みとることができる。
表面上はあまり変わらない笑顔の中には、怒ったり悲しんだり、子供のように豊かな感情が隠れている。
それがわかることが何故か嬉しくて、飲みに行くのが何もない日々の唯一の楽しみになった。
ある休日に誘われてカカシ先生の家に行った。
ベッドのすぐ上の方においてある二つの写真立て。
一つはナルト達と。
もう一つはカカシ先生のスリーマンセルの時の写真のようだった。
「俺ね、昔は凄い泣き虫だったんですよ。ほら、この写真なんて、泣き出しそうになるのを我慢して変な顔になってるでしょう?」
たしかに顔をしかめて不機嫌そうなその顔は、見ようによっては泣き出す一歩手前のように見えた。
写真は、いつもとどこかが違う違和感。
もちろん小さい子供だからということもあるけれど。
「両眼が…」
たしかサスケは普段は赤い瞳ではないけれど、カカシ先生の左眼はいつも赤かった。
「ああ、写輪眼じゃない? まだこのころは自分の眼だったので」
「自分の?」
「ええ。こっちの写輪眼は自分の眼じゃないんです。この隣にいる親友から貰ったものです」
「えっ」
そんなことは初めて聞いた。
血継限界の血筋なのだと思っていた。
「ヤツが死んだときに左眼を移植したんです。だっておかしいでしょう?俺は『うちは一族』でもないのに写輪眼なんて」
「そう、だったんですか。すみません、無神経なことを聞いて」
「いいんですよ、イルカ先生」
あまり気にした風でもなく、にこにこと笑っている人を前に安堵したが。
「ああ、それからかな。あんまり泣かなくなったのは…」
なんでもないようにふと発せられたその言葉から、考えられるのはただ一つ。
昔は泣き虫だったのに、今は左眼からしか流れない涙。
それはきっと、泣きたくても泣けなくなった親友の心を守るように、写輪眼が泣いているのだ。
それは正しい答えのような気がした。
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2002.10.05 |