【同じ空の下1】


昼すぎ。ちょうど受付の仕事に切れ間ができ、時間にも余裕ができた頃。
「イルカ」
五代目に呼ばれた。
「はい」
何か任務かもしれない。
おつかいだろうか。カカシ先生が今日里外から帰ってくる前に済めばいいのだけれど。
そんなことを思いながら、五代目に近づく。
「お前。ちょいと人捜しを頼まれてくれないか」
「人捜し、ですか」
それはまたやっかいな。
猫の子と違って、人捜しは必ずしも見つかるとは限らない。火影直々となれば、その困難さも推して知るべし。
カカシ先生、ごめんなさい。今日は早く帰れそうにありません。
心の中でそう謝り、五代目の後について行く。火影執務室で任務の内容を聞くことになった。


「生き別れになった子供を捜しているらしい。いや、生き別れというか、人に預けてしまったんだけどね」
ある農村で一組の夫婦が暮らしていた。待望の子供が生まれたが、運悪くその年は凶作だった。
飢饉に見舞われた小さな村で産まれたばかりの赤ん坊を育てていくことは不可能に近く、通りがかった忍びに託したのだという。どうか育ててやってくださいと。
その忍びは任務のために遠い遠い国から来たらしかった。国への帰り道、一晩の宿を借りたいと夫婦の元を訪れた。
人の良い笑顔の忍びには、赤ん坊も不思議と懐いて泣き出す気配もない。聞けば同じく忍びをしている妻には子が出来ず、二人とも寂しい思いをしているのだという。
夫婦は一晩寝ずに話し合い、どうかお願いしますと忍びに縋った。
忍びはしばらく考え込み、「名前はこちらで付けてもいいのですか」と聞いた。「はい」と答えると「わかりました。大切に大切に育てます」と言って赤ん坊をそっと抱き上げ、その村を去っていった。
ようやく生きて行くにも余裕ができたころ、その選択を後悔して託した忍びを探そうとしたが、手がかりらしいものは何もない状態だった。額あてにあった印だけが唯一の手がかりと言えた。
依頼人は何年も何年もかけて探し、ようやく木ノ葉へ辿り着いたらしい。
「それで、依頼人に会って詳しい話を聞いて欲しいんだよ」
と五代目は言う。
おかしな話だと思った。
詳しい話も何も、そこまで事情がわかっているなら人捜しのための情報も調査済みなのでは。そう思ったからだ。
自分がすべきことは、その情報を元に木ノ葉の忍びの身体的特徴や任務状況を地道に調べて報告することかと話を聞いているときに勝手に予想していた。
しかし、火影様自ら命じられた任務に口を挟むなどできるわけがない。一介の中忍には深い考えがあってのことかもしれない。
「わかりました。では」
別室で待っているという依頼人の元へ行こうとしたとき、五代目に呼び止められた。
「なんでしょうか」
「この任務はお前にすべて任せる。もし探し出せないというなら、それはそれでかまわない」
「かまわない、のですか?」
それは、最初から諦める可能性が高いということなのだろうか。
「ああ。お前があの母親に子供を会わせてやることができないというのなら、きっと他の誰にだって不可能だろう」
質問する暇は与えられず、お行きというように手を振られたので、やむを得ず退出した。
別れ際の言葉に、ますます頭を悩ませることになった。
俺には見つけられなくても、人捜しに長けた忍びはたくさんいるはずだ。それなのに、なぜ五代目はあんなことを言うんだろう。
首を傾げながらも依頼人の待つ部屋へと向かった。扉の前で深呼吸をして今の疑問を振り払うと、依頼人を不安にさせないよう笑顔を作ってノックした。


●next●
2006.02.11


●Menu●