【11:送って行ってよね!】

ナルトが修行のために、自来也と共に里を出て行ってから数日が過ぎた。
そんなときにカカシが言い出した。
「イルカ先生。明日から二週間ほど里を離れます」
「ああ、任務でしたね。お疲れさまです」
イルカは普通に頷いて、それで話は終わりだと思ったのだが。
カカシが言い出しにくそうに指でのの字を書いていたりする。頬まで染めて。
嫌な予感がするとイルカは思った。こんなカカシが言い出すことなど碌な事じゃない。
「それで、あの〜……送って行ってもらえませんか?」
「は?」
「いやだから。大門まで見送りに来てくださいよ」
「なんで」
「なんでって、もう長いこと会えなくなるんですよ!? ちょっとそこまで見送ろうかなって思いません?」
「思いません」
見送りなんて家の中だけで充分じゃないか。そんな大門の前までなんて、ちょっとそこまでのレベルじゃないのはわかっているはずなのに、とイルカは眉を顰めた。
「酷いっ。ナルトの時は見送りしたじゃないですか!」
「あ、あれは……」
「ナルトがよくて、俺は駄目なんて納得しませんよ!」
「あなたとナルトとは違うっ」
イルカがそう言い放つと、カカシは心底傷ついた顔をした。
「ナルトの方がイイって言うんですか!」
「そうじゃなくて! だってナルトの時は身内だけの見送りだったけど、あなたのは中隊を率いる出発じゃないですかー!!」
イルカはたまらず叫んだ。
大勢の人間の目の前で見送りなんて、できるわけがない。
誰だよアイツ。え、何、写輪眼のカカシの? 冗談、嘘だろ。
言われそうなことは分かっている。そんな恥をさらしに行くなんてとんでもない、とイルカは首を振った。
そんな気持ちを知ってか知らずか、カカシは恨めしそうにジッと見つめてくる。
「もし見送りにきてくれなかったら、泣くから」
「は?」
「泣き喚くから。『イルカ先生が見送りにきてくれなきゃ任務に行かな〜い』って大声で叫ぶから!」
お前は子供か。
イルカは脱力する。
天下の写輪眼が。里のエリート上忍が。
泣き喚くとは何事だ。
まさか地団駄踏んだりしないだろうな、と不安でいっぱいになった。
「ちゃんと送って行ってよね!」
もうすでに涙が滲んでいそうな上忍に強請られて、イルカは決意した。
見送りに行っても行かなくてもどうせ笑いものになるなら、目の前の子供が泣かない方がいいだろう。
自分はやたらめっぽうこの子供に甘いという自覚はあった。だからといって、躾は最初が肝心というだけあって、今さら変更はきかないのだ。
「……わかりましたよ」
「ホントですか」
ぱあぁと嬉しそうに輝く表情に、イルカは苦笑しながら頷いたのだった。


【28:冷たいよ!!!】へつづく


[2006.06.24]