今までずっと信じていたことが覆されてしまった。
まだいまいち信じられなくて、もしかして俺はイルカ先生に騙されてるんじゃないかと疑う気持ちが無きにしもあらず。
「だって『ぎゅうひ』って……」
そう反論する。
「何がどうとっちらかったのかわかりませんが。いいですか、カカシ先生?」
「はい」
真剣な眼差しでイルカ先生が話すので、俺も神妙に返事をする。
膝を突き合わせた状態でじっと言葉を待つ。
「『ぎゅうひ』は牛の皮じゃありません」
「ええっ、嘘!」
だって牛の皮膚だから『ぎゅうひ』って呼ぶんじゃないの?
「牛の皮みたいに柔らかいところから名付けられた、いわゆる餅の一種ですよ。ホットミルクと『ぎゅうひ』は何の関連性もありません。あの薄い膜は豆乳からできる湯葉と同じ原理なんですよ?」
教師らしくわかりやすく教え諭され、だんだんと内容が頭の中に浸透してくる。
そうだよな、なんで温めた牛乳に牛の皮を入れてあると思ったんだろう俺。普通に考えてありえない!
「俺はまたてっきり……!」
「ああ、今まで牛の皮だと思っていたから飲めなかったんですね」
よしよしと頭を撫でられ、今日の衝撃が少し和らいだ気がした。単純な俺。
「誤解が解けたんだから、飲んでみますか?」
「……今日はまだやめておきます」
まだ抵抗なく飲めるまでは心がついていってない。頭ではわかっていても。
「今日はとりあえず、もっと頭撫でてください。そうすればホットミルクも飲めるようになる気がします」
そう言うと、イルカ先生は笑って俺の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
その後、何かの拍子のその話になり。
一部始終を聞いた上忍仲間は、皆が皆遠慮なく笑った。
「カカシ、あんたって可笑しいわ!」
「お前ばっかじゃねぇの?」
あまりにも全員が豪快に笑うので、笑われる俺としては面白くない。
そこは一応友人の礼儀として笑いを堪えるものなんじゃないのか。
「五月蠅い、ほっとけよ。わかった時は思いきりカルチャーショックだったんだから」
「カルチャーショックって、それこそただの勘違いだろうが」
くそっ。
たしかに勘違いだった。が、だからといって恥をかきたいわけじゃない。もう放っておいてくれ。
「あ〜五月蠅い五月蠅い!」
当分この話題でからかわれるのかと思うと憂鬱な気持ちになる。
ちなみに、イルカ先生の愛のおかげでホットミルクは飲めるようになった。飲んでみればただ単に温かいだけの何の変哲もない牛乳で、なぜあんな勘違いをしていたのか自分でも疑問だ。
そんな日常の笑い話。
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