没頭していた仕事から意識が戻ってくると、急に音が耳に入ってくる。
ストーブにかけた薬缶から、しゅんしゅんと音がして、しきりに湯気が立ち上っていた。
世間はクリスマスと騒がしい中、ここアカデミーは繁華街からも離れているため静かなものだ。こんな日に残業する者も自分だけ。
ぼんやりと湯気を見ていると、職員室の戸がガラリと開いた。
「イルカ先生」
カカシ先生だ。
「おかえりなさい、カカシ先生」
「ただいま」
寒さのせいか鼻の頭がうっすら赤い。
怪我をした様子はなかった。ただちょっと忍服が埃まみれなだけで。
ああ、よかったと安心した。
寒い寒いとストーブに凍えた手をかざしながら、カカシ先生は振り返る。
「イルカ先生、仕事まだまだかかる?」
「いいえ、もう終わりです。一緒に帰りましょう」
そう言ってパタンと簿冊の表紙を閉じた。
本当は残業する必要はまったくなかった。上忍の単独任務に出たカカシ先生を待つために、今じゃなくてもいい仕事をだらだらと続けていたのだ。
そうすればいち早く会えるから。
職員室に灯りがついていれば、必ず見に来てくれるのは知っていた。だからわざわざ残っていた。だって、こんな夜に家で一人で待っているのはちょっと辛い。同じ待つなら早く会える方が断然良い。
一緒に外に出てみれば、吐く息も白く凍えそうだった。
「雪降らないかな?」
「夜遅くに降るって予報で言ってました」
曇り空を見上げて答える。
「じゃあホワイトクリスマスだ」
と、カカシ先生は嬉しそうに言った。
雪なんて積もったら面倒なだけなのに、と思う俺は現実主義なのだけれども、なぜかそのときだけは雪が降ればいいなと思った。
→【65:早く早く!】へつづく