何故?
任務じゃないことへの驚きよりも、その不可思議な行動に驚愕した。
ろくに見えない空を飛ぶことがどんなに危険なことか知ってる。
主人のため任務のため、というならまだしも俺のために?
正直俺がそこまで好かれているとは到底思えない。
イルカ先生の関心を引きたいが為にまとわりつく俺に、ルリコは厳しかった。時にはくちばしで指を噛まれ、時には頭をつつかれ。平然とした顔をしてイルカ先生の愛情を一身に受ける彼女がどんなに羨ましく憎らしかったことか。
「俺が……俺があんまりにも心配してたから、きっと……」
イルカ先生はくしゃりと歪めた顔を自分の腕で覆った。
主人に忠実な忍鳥は、主人のことしか考えない。だから彼女が命を張って行動したならば、それはイルカ先生のためでしかないのだ。
それはつまり。
「あなたが動けなくなって帰れない時は、必ず迎えに行きますから。だから……」
みるみるうちに目に溜まっていく涙。
震える声。
「だから、絶対死んだりしないで待っていてください」
それは俺を心配してくれているってことで。
死なないで欲しいってことは、俺が生きていることを望まれてるってことで。
だってそれはつまり。
愛の告白を受けたのと同じだ。
もしかしてこれは夢じゃないだろうか。捜索隊が到着するのが遅くて待っているのが苦痛だから、ちょっと幸せな夢を見ていようと俺の脳みそが考えたんじゃないだろうか。そう考えれば納得がいく。
黙り込んでしまった俺に、イルカ先生は悲しそうに目を伏せた。
その時ルリコが俺の頭にとんと乗り、くちばしで髪の毛を引っ張った。『早く返事しなさいよ』と言わんばかりに。
あまりの痛みに、これは夢なんかじゃなくて現実なんだと悟った。
そうだ、答えなければ。
きっと約束もしない不誠実なヤツだと思われたに違いない。慌てて返事をする。
「も、もちろん! 待ってます、イルカ先生が迎えに来てくれるなら死んでなんかいられません!」
「本当ですか?」
「はい!」
俺の言葉に安堵したのか少しだけ笑顔が戻ってくる。
でもまだ俺の気持ちは通じてない。どれだけイルカ先生が好きでいるかってことは。
夢にまで見た愛の告白を受けたのだから、俺も告白しなければ。
「俺はイルカ先生のことが好きです。愛してます。だからイルカ先生の許可なく死んだりしないから、安心して?」
イルカ先生は驚いて目を見開いていたが、俺の言葉が通じたのか最後には嬉しそうに『はい』と頷いた。
それから里へ帰ることになった。
俺の頭の上にずっと乗っかっている小鳥を見て、
「ルリコはよっぽどカカシ先生のことが気に入ったんですね」
とイルカ先生は言う。
そういうわけではない、と思う。ただ二人とも、いや一人と一羽ともイルカ先生が好きだというだけだ。
だが、仲良しは良いことだと微笑むイルカ先生を前に、言い出せなかった。
鈍いご主人を持つと苦労するよね、ルリコ。
ただ感謝はしている。
お前はきっと、どんな時でも俺を迎えにくる幸せの青い鳥。
待っているだけでもやってくる幸せはあるんだってこと、俺は生まれて初めて知ったよ。
「ありがとう、ルリコ」
礼を囁くと、彼女は『なんでもないわよ』と言うようにチチチチとさえずった。
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