最初は会っても挨拶だけ。後は七班の様子を少し。
それ以外に話すことと言ったら天気のことぐらいだった。
「毎日暑い日が続きますね」
「洗濯物がよく乾いて助かってます」
笑顔でそう返されて、そうか洗濯物がよく乾くのかと思った。なんとなく太陽が照っているのも悪くない気がした。
ただそれだけのことだったのだけど。
報告書を出す時はなんとなく晴れがいいなぁと思うようになった。
しかし、その日はあいにくの雨だった。
晴れてないから笑ってくれないかも、と思うと、とっても残念だ。
けれど予測は外れ、報告書は笑顔で受け取ってもらえた。
どうして?と不思議に思う。
「今日は雨だから洗濯物が乾かなくて困るでしょ」
「でも雨が降らないと農作物も育たないでしょう? たまには降ってくれないとね」
そんなものかな。
ぴんとこなかったけど、そんな風に言われるとそうかもしれないと思う。雨が降るのも悪くない。
「それに……雨が降る音を聞くのも好きですよ」
穏やかな笑みは、その言葉に嘘がないことを証明していた。
すごく前向き。
晴れてもいいし、雨が降ってもいい。どっちになってもどっちも素敵。
きっと、すべてが楽しくてすべてが喜びの素なのだ。この人にとって。
それは不満ばかりで生きている人間には理解の範中外だろう。自分が辛くて苦しいのは誰かのせい、ポストが赤いのも誰かのせい。
でも不幸に生きるより、幸せに生きる方がいいのだ。
優しい気持ちになれるこっちの生き方の方が断然いい。こんな風に生きたい。
「あの……あのね、イルカ先生」
「はい?」
「側にいてもいい?」
ずっと側にいて、一緒に生きてもいいですか?
俺も雨音に耳を傾け、農作物が育つことに幸せを感じ、洗濯物が乾くからと太陽に感謝したい。
幸せに暮らせたらいい。あなたと一緒に。
→【30:きっと晴れるよ】
※四拾萬打リク『ちょっとした時に交わす言葉から少しづつ相手に心を寄せ始める二人の話』