づつう、ようつう、めまいに初恋 写輪眼。 (前編)



「何てことするんですかあんたは!」

カカシは振り返って台所の入り口に仁王立ちになったイルカを見ると、自分が今まで菜箸を突っ込んでいた、昨夜の煮物が入った鍋を見た。
「あ、どうしても腹減っちゃって・・・でも、ちゃんと小皿に取りましたよ?」
「その話をしてるんじゃないです!今日、ナルトに何言ったんですかあんたは!」
「何って・・・。」



その日、任務の帰り道にいつになく思い詰めた様子でナルトはカカシに声をかけた。
「カカシ先生、あのさ!あのさ!どうやったら俺、サクラちゃんにサスケじゃなくて俺をもっと見てもらえるようになるかな?」
カカシは本に目を落としたまま、
「んー、お前サクラのこといつも見てるか?」
「おう!いっつも見てるってばよ!」
「だったらあきらめろ。」
「え?」
「5分見て相手が寄ってこないようじゃ可能性ゼロだ。次を探せ。」



「あいつはあいつなりに、初めて好きになった女の子の為に必死に頑張ろうとしてるんですよ!それを、そんなあっさり切り捨てるような言い方なんて・・・」
イルカはふと言葉を切った。
カカシは右手に菜箸、左手に小皿を持ったままきょとりと首を傾げてイルカを見ている。
「だって、そうじゃないんですか?」
「何がですか。」
「5分見て女が寄ってこなかったら、『赤い糸』が無いっていうことでしょう。」

しばらくの間無言で固まったイルカを更に首を傾げて見ると、カカシは菜箸を流しに突っ込んで、小皿から筑前煮を指でつまんで食べ始めた。
「カカシさん、ちゃんと箸を使って・・・じゃなくて!」



落ちつけオレ、これは多分からかわれてるんでも例え話でもないぞ。冷静になれ、オレ。



「・・・カカシさん、『赤い糸』って何でしたっけ?」
「え?だから、赤い糸でーすよ。女って便利ですよねー、そんなものが目に見えるなんて。」
「・・・えーと、『赤い糸』と女の人が寄ってくるって、どういう関係にあるんでしたっけ。」
「えー、だから俺達がこう女を見るとですね、勝手に体から赤い糸が伸びて行って、それがうまく女のところに着けば女は寄って来るんでしょ?」
「・・・それ、誰に教えてもらったんですか?」
「紅にですけど。俺も教えてもらうまでは知らなかったんですけど、女ってやっぱり凄いですよねえ。そんなものが見えるなんて。アスマにも、今まで知らなかったのかって呆れられましたよ。」



・・・いや、すごいのは三十路も近い写輪眼持ちでそんなのを思いっきり信じこむあんただよ。
ていうかあの二人、絶対俺の耳に入ることまで予想した上で楽しんでるだろ?



「・・・それでカカシさんは、今まで見てるだけで女が寄ってきたと。」
「ええまあ。でも、時々失敗しちゃって。」
「失敗?」
「はい。こっちの女を見たつもりが隣の女が寄って来たりとか、見たつもりもないのに寄って来ちゃったりとか。」
なかなか難しいもんですよねえ、と煮汁の付いた指を舐めながら笑う男を前に、イルカは台所のテーブルに手を付いてがっくりと沈み込みそうな体を支えた。



ああ、それであんたはそんな阿呆なことを吹きこまれても丸々信じ込んでたと、そういう訳なんですね。さぞかし女には苦労してなかったってことでいやがるんでしょうね、このクソ上忍。



「−いやあ、だからイルカ先生の時はどうしようかと思っちゃいました。」
「−はい?」
イルカが顔を上げると、カカシは頭をかきながらニコニコ笑っていた。
「イルカ先生も男だから、見てるだけじゃやっぱり駄目じゃないですか。だからどうやってきっかけ作ろうか、とか色々考えちゃったりして、イルカ先生がアカデミー終わる時間までに任務を終わらせられれば飲みに誘えるかな、とか何話せば喜んでくれるかな、とか色々・・・。」

いやあ、やっぱり男同士って難しいですよねえ、と顔を僅かに赤くして笑う男を前にして、イルカの顔も瞬時に赤く染まった。

「・・・普通は皆そうなんです。」
「え?」
「だから!普通は皆そうやって、どうきっかけ作ろうか、とか色々と悩んだりするもんなんです。」
視線を逸らしてぶっきらぼうに言うイルカを前にして首を傾げたカカシは、いきなりポン、と手を打った。
「あ、なるほど!」
「はい?」
「ていうことは、イルカ先生が俺の初恋なんですね!!」

今度こそイルカの体は台所にずるずると沈み込んだ。





はつこい。初恋ですか。里の誇る写輪眼が、初恋ですか。





しかし目の前で幸せそうに笑いながらなるほどそうか、うんうん、と一人納得し続ける男を見ているうちに、不思議とまあそれでも良いかな、という気になってきたイルカは、鼻傷をかきながら
「そういうわけで、ナルトにはちゃんと謝っておいて下さいよ。」
とだけ言った。
「はい、分かりました。」
と機嫌良く答える男を見ているうちにひょっとしてこれもあの二人の策略の内?という気もしてきたが、何だかそれすらどうでも良くなってしまったのだった。


to be contined



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うたうたい。』のけろぽんさまより。
相互リンクの記念に相互リクという素晴らしい提案があり
そのリクエスト小説前編です。
「赤い糸」を信じる上忍、しかも意味違うし。
イヤーン、非常識のかたまりのようなカカシにメロンです。
題名が可愛くて、それだけでもうOKって感じ。
うふふ。後編も楽しみです。
冬之介 2003.05.22
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