「カカシ先生、食べられますか?」
イルカ先生がお盆におかゆを乗せて覗き込んでいた。うたた寝していたようだ。ここは居心地がいいからつい眠ってしまう。
「はい、食べます」
イルカ先生はベッドの下にあるハンドルを回して、寝ている上半身側の角度を変えていく。寝たままで身体が起きあがった状態になる、きちんとした介護用ベッドだ。これがこの部屋にあること自体、上からの命令だという証拠だ。
しかし、そんなことはどうでもいい。イルカ先生が側にいるということが重要なのであって、誰かの思惑は関係ない。
「はい、どうぞ」
簡易テーブルの上に乗っけられたおかゆ。
たしかに手作りのおかゆは美味しそうではあるが、それだけではつまらない。せっかくの機会なのだから。
「えっ、イルカ先生。食べさせてくれないんですか!」
「ええっ?」
「だって俺、監禁されてるんですよ。腕は動かせないし、困ったなぁ」
わざとらしく溜息をついたりして。
「じゃあ、食事の時は紐を外しますから」
「でも紐を外したら、俺逃げるかもしれませんよー?」
ニヤニヤと脅してみた。
「でも、そしたらどうしたら……」
困っているイルカ先生の前で、口を大きく開けた。
「ほら、口開けてますから食べさせてください」
「えっ」
「生かさず死なさずが監禁の基本でしょう?ちゃんと餌はやらなくっちゃ」
「し、仕方ないですね」
イルカ先生は顔を真っ赤にしながら、匙でおかゆをすくって冷ましている。
ビバ、監禁ごっこ!
こんなに幸せでいいのか、と不安になるくらいな日々だった。


きっちり一週間後、監禁は終了した。
もっと酷い怪我をしておけばよかったと後悔したくらいだ。
「ねぇ、イルカ先生。またいつか監禁してくれます?」
「駄目ですよ!もう二度としません」
「どうしてですかぁ?」
「そ、そんな危ない橋は渡りません。カカシ先生もこれからは監禁されないよう気をつけてください!」
「はぁい」
どんな言葉も愛のささやき。
これからは怪我しないよう気をつけてくださいだって。
ああ、なんて可愛い恋人だろう。
直接言わなくても、言動の端々に見え隠れするその愛の形がわかるから、素直じゃなくたって俺は平気。むしろ俺しかわからなければいいと思う。
誰も知らなくていい、イルカ先生が優しくて可愛くて一番ってことはね。


END
●back●
2004.08.28


●Menu●