「カカシ先生!!」
勢い込んで入った部屋でイルカが見たものは。
「ああっ。イ、イルカ先生!」
そこにはナルトにサスケにサクラ、おまけに紅までいた。
その中心に座っているのは確かにカカシだった。
「アスマ!お前、イルカ先生のこと引き留めろって言っただろうが!役に立たない奴だ」
「そうは言ってもな。あきらめてきちんと謝れ、カカシ」
いつも通り元気なカカシの姿を見て、イルカは力が抜けた。
「…何してるんですか」
「イルカ先生、ごめんなさいっ!!」
「は?」
「先生が大事にしていた湯飲みを割ってしまいました……」
確かにカカシの手の中にあるのは自分の湯飲みだ。
割れた欠片がいびつにくっついている。
どうやら何とか修復しようとしていたらしいのだ。
「もしかして朝の音はそれですか」
「ご、ごめんなさいっ!手が滑ってしまったんです!そんなつもりは全然なかったんですが……」
どんどん声が小さくなっていくカカシ。
もはや涙目だ。
「割ってしまって、それを隠そうとしたわけですね」
カカシが無事だったことに安心したイルカは、ようやく冷静さを取り戻しつつあった。
だが無駄な心配をさせられた怒りで、多少冷たい口調になってしまうのは仕方がない。
「どうしてそんなことをしたんですか」
「すみませんでしたっ。だってこの湯飲みはイルカ先生のお父さんの手作りで、世界に一つしかないって前に言ってたから。どうしても割ってしまったって言えなかったんです」
確かにそうだった。
父の手作りで宝物だった。
自分のためだけに作ってくれたものだったから。
カカシは、割ってしまったとわかればイルカがどれだけ悲しむかと思うと、言い出せなかった、というのだ。
イルカは自分でも知らないうちに微笑んでいた。
「これはこれで宝物かもしれませんね」
「え?」
「だってカカシ先生が俺のために直そうとしてくれたんでしょう?だから…」
そういってイルカはカカシがツギハギだらけにした湯飲みにキスをした。
「イ、イルカせんせぇー」
えぐえぐと泣く上忍はめったに見られないものだった。
とにかくイルカは怒ってもいないし、悲しんでもいないらしい。
そうわかると、周りには安堵の雰囲気が漂った。
「だいたいカカシは不器用なのよ。もっと上手くつなげればいいのに」
「そうですね。もっと器用なのかと思ってたら意外と下手でしたねー」
「ホントだってばよ」
「あれじゃあ、直るものも直らんだろう」
「フン」
皆てんでにカカシを責めはじめた。
「うるさいよ、お前ら!横でゴチャゴチャ言うから手が滑ったんだよ!」
カカシの言い訳に始まって、皆のわいわいがやがやと賑わう雰囲気にイルカは微笑む。


形あるものは壊れてしまうけれど。
その存在を忘れたりはしない。
どんな想いが込められていたかも。
だから大丈夫。


イルカの家には今もツギハギだらけの湯飲みが飾ってあるという。


END
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2001.12.08


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