【形あるもの】


ガシャン。


せっかくの休みに惰眠を貪っていたイルカは、その音で起こされた。
なんだろう。台所?
そういえば隣で寝ていたカカシがいない。
「カカシ先生。大丈夫ですか?何か壊れました?」
返事がない。
だが確かにカカシの気配はする。
「カカシ先生?」
台所を覗くと、黒い影が目にも止まらない速さで駆け去っていった。
「え?カカシ先生?」
もう誰の気配もない。
シン、とした台所に立ちつくしたイルカは、不安が自分を包み込むのを感じた。
何があったのだろうか。
まさか。
敵襲があったのではないか。
それで場所を移動したのではないのか。
そう考えはじめると、もう居ても立ってもいられなかった。
無意識のうちに着替えて外に駆けだしていた。


どこを探してもカカシの姿は見つからなかった。
どうしよう。
何かあったのでは?
俺が気づかないばっかりに、助けてあげられなくて怪我をしてしまったのでは?
不安は募るばかりだ。
「あ!アスマ先生!」
「…イルカ」
辺りを走っている途中に見つけたアスマは、いつもと様子が違っていた。
何かを知っているのだ。
「あの、カカシ先生を捜しているんですが。アスマ先生はご存じないですか?」
「カカシか……」
そう言うとしばらく黙りこんでしまった。
「なぁ、イルカ。お前は忍者だ。そうだろ?」
何を言おうとしているのかわからなかった。
わからないけれど、その先は聞きたくないと思った。
「忍者ってモンは何が起こっても動揺したりしないもんだ。人間誰しも、いつかは死ぬ。形あるものは壊れる。自然の摂理、ってやつだ。わかるな?」
人間はいつかは死ぬ。
形あるものは壊れる。
アスマの言おうとしていることは…
頭ではわかっていても、心ではわかりたくありません、アスマ先生。
じわり、と涙が出てくる。
「あー、そんな悲しそうな顔するなよ。困ったな」
「す、すみません…」
「いや、あやまるこたぁねーが」
アスマは頭をガリガリと掻く。
いつものイルカなら相手が困っていたら無理をしてでも笑っていたはずだ。
けれど。
カカシ先生。
俺を置いて逝ってしまったんですか?
死んだりなんかしない、そう言ったくせに。
嘘つき。
嘘つき。
「あーっ!駄目だってば、カカシ先生!!」
ナルトの声にびくりと肩を震わせるイルカ。
「あっ、おい、イルカ!」
アスマの止めるのも聞かず、声の聞こえる方に走り出した。


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