カンッ。カンッ。
はじめはおそるおそる打っていたカカシも、だんだん要領がわかってきて羽根を落とすこともない。
そうなれば上忍である人間にかなうわけがない。
かなり打ち合いが続きはしたものの、結局負けてしまった。
「じゃあ、罰ゲームですね。眼を閉じてください」
「あんまりへんなこと書かないでくださいね」
「ふふ、それは後のお楽しみです」
眼を閉じると左瞼に筆の感触がした。少しひやりとした墨が顔にのっていくのがわかる。
瞼から頬にかけて垂直に一本線。
「はい、できあがり。おそろいですよ」
目を開けると嬉しそうに笑うカカシの顔が間近にあった。
なにが『おそろい』なのかは見るまでもなかった。
カカシの傷と同じ。
そんなことに嬉しそうに笑う人。
しかたのない人。
どうしようもなく笑いがこみ上げてきて困った。
「もう一回やりましょう。今度は負けませんから」
「それはこっちのセリフです」



打ち合いは続き、なかなか勝負は決まらなかったが、なんとか勝てた。
たぶん最後はカカシが手加減したであろうことはわかっている。
でも今はやりたいことがあったのでそれはありがたかった。
「カカシ先生、眼を閉じてください」
「はい」
少し緊張して瞼が閉じられる。
筆に思いきり墨を含ませて、右頬から左頬にかけて真一文字を書く。
「はい、できました」
そう言うとカカシは眼を見開いた。
「イルカ先生。これ、もしかしておそろいですか?」
「はい、そうですよ」
たしかに楽しいかもしれない、これは。
というよりはカカシの反応が。
まるで宝物を見つけた子供のように眼を輝かせているから。
ぎゅう、と抱きしめられて。
「嬉しいです」
そんな言葉だけで自分も幸せな気分になった。
「来年もしましょうね、カカシ先生」
「約束ですよ?」
「ゆびきりしますか?」
「します」
ゆびきりの約束なんて何年ぶりだろうか。
自分まで子供に戻った気分だ。
子供なりの真剣で神聖な約束。
「嘘ついたら針千本のーます」
そう言ったきり、いつまでも指を離そうとしない。
「……カカシ先生。指を切らないとゆびきりになりません」
「だってせっかく繋いだのに離したらもったいないじゃないですか」
そんなことを真剣に言うなんて。
笑いをこらえるのに必死だった。
「じゃあ約束は守らなくてもいいんですね?」
「え。……わかりました。もう、イルカ先生我が儘ですねー」
「どっちがですか」
「じゃあ、指切った」
指が離れていくのを見ながら、きっと約束は成就するだろうと来年に想いをはせた。
来年の話をすると鬼が笑うと言うけれど。
でも叶えたいという想いがあれば大丈夫。きっと。
「カカシ先生、お昼何が食べたいですか?」
「おしるこが食べたいです」
「ああ。ホントに甘いもの好きですね」
「イルカ先生はもっと好きです」
そんなことを平気で言う。
恥ずかしくて振り向けないじゃあないか。
きっといつものように笑っているのはわかっている。
今年も一年この人に振り回されていくんだろうな、と思う。
それでもいいと思ってはいる自分がいるのは内緒だけれど。


END
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2002.01.01


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