まだ朝早いのできっとイルカ先生は寝ているだろうと思い、そーっと玄関の扉を開けると、外の冷たい空気とは違う暖かい空気が頬を撫でる。
なんだか帰ってきたんだなぁと実感していると、起きている人の気配がする。
あれ?と思い、玄関続きにある居間をよくよく見ると、真ん中にドンと置いてあるこたつの中にいるのはイルカ先生だった。
「お帰りなさい」
柔らかく笑って、そう言われた。
「イルカ先生!起きてたんですか?」
「約束でしたから」
崩れない笑顔は、それだけで罪悪感でいっぱいになる。寝ないで待っていてくれたんだ。
「すみません!間に合わなくて……本当にごめんなさい!」
イルカ先生が座っているので、視線を合わせようとすると自然土下座体勢になりながら謝った。
「カカシ先生、やめてください。いいんですよ」
「だって、ずっと起きてたんでしょう?」
「でも、カカシ先生だって任務で徹夜でしょう?」
「そりゃあ、そうですけどぉ……」
でも、任務の緊張した雰囲気の中起きているのと、暖かい家の中起きているのでは、ちょっと違うような気がする。
「カカシ先生が懸命に働いているのに、俺だけのんびり寝ているのも気が引けたので」
そんな可愛らしいことを言ってくれたりなんかして。
「あ、カカシ先生!日の出は見られましたか?」
「ええ、まあ。道端で」
「よかった!」
嬉しそうに微笑むイルカ先生を、不思議に思って聞いてみた。
「よかったって、何がですか?」
「俺も部屋の中からですけど、見てました。同じ時間に見てたんだから、一緒に見たのと同じことですよね」
場所は離れていても、同じものを見た。そういうことだ。
じーんとしながらも、
「でも、やっぱり並んで一緒に見たかったです〜」
と泣きを入れる。
理屈はわかるけど、でもやっぱり。
「それは、また来年があるでしょう?再来年だって、その次の年だって。これからまだまだ機会はたくさんありますよ」
「うう〜〜。そうかもしれませんけど、でもこれから死ぬまで後何回あると思っているんですか!たとえ100才まで生きるにしたって、後74回しかなかいんですよ!その貴重な1回がー」
俺があんまり情けない顔をしていたのか、イルカ先生は苦笑して、子供を宥めるように頭を撫でた。
「まだ何もかも始まったばかりじゃないですか。最初から騒いでいると、後で息切れしますよ」
「じゃあ、来年は必ずですよ?」
「約束です」
そう言って、イルカ先生は笑った。


太陽はまだ起きたばかり。
これからだって何度でも一緒に朝日を迎えよう。大好きなあなたと共に。


END
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2004.01.17


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