【太陽はまだ起きたばかり】


くそっ。くそっ。くそっ。
心の中で悪態をつきながら全力で地面を蹴って失踪する。
「おおーい、カカシー。そんなに慌てんでも正月は逃げんぞぉ」
後ろからなんとかついてくる悪友の声は耳に届くが、それに構っている暇はない。
「正月は逃げなくても、朝日は昇っちゃうだろ!」
「ああー?」
ちくしょう。
本当だったら、大晦日の夜はイルカ先生と一緒に年越し蕎麦を食べて、除夜の鐘を聞いて、12時を過ぎたら一番最初に「あけましておめでとうございます」なんて挨拶して、それからそれから、高い山に登るのは無理でも里の一番高いところへ御来光を見に行きましょうねって約束していたのに。
それが昨日の夜、さぁこれから蕎麦を茹で始めようとした矢先。突然呼び出しを食らって任務なんてあんまりだ。暴れまくって拒否してやろうかと思ったけど、イルカ先生の前であまりみっともない姿も見せられないからしぶしぶやることになってしまった。
それでも、「除夜の鐘は無理でも、日の出には必ず間に合うように帰ってきますから!」と堅く約束したはずなのに。
だいたいこんな年の瀬迫ったころの任務などロクなものじゃない。案の定、他の里の抜け忍が仕掛けてきたとかいう面倒な任務だった。
形勢が逆転しても往生際の悪い抜け作の忍者は、くだらない時間稼ぎなど始めてしまい、倒すのに時間を食った。
もはや夜明けは直前に迫っていた。これでは間に合わない。
もしかしてあの抜け忍は、俺の幸せを邪魔するためだけにこんなことをしたんじゃなかろうか。どこかでイルカ先生を見初めて、恋人である俺に対する報復をしているのかとさえ思えるほどだ。
いや、そうに違いない。ああ、ちくしょう。
遠くの地平線の彼方にある空がしらじらと白みはじめたかと思うと、オレンジがかった光が差し込んできた。
「ああっ、太陽が昇ってしまったぁ!」
思わず叫んで足を止めた。
後もう少しで家に辿り着けたのに、駄目だった。新年早々ついてない。
去年は念願叶ってイルカ先生と恋人として付き合えるようになるというあまりにも幸運な年だったから、今年はもう運を使い切ってしまっているのか。一人っきり、いや同僚はいるにしてもこんな道端で朝日を拝もうとは。
呆然と立ち尽くし、橙に雲を染めながら昇ってくる太陽を見つめた。
毎日必ず昇ってくるとはいうものの、年が改まってから初めて昇る太陽はやはり特別なもののように思える。
ああ、あの人と一緒に見たかった。一緒に「綺麗ですね」って言いたかった。
もはや昇りきって完全なる円形に輝く太陽。
がっくりしながらトボトボと歩き始めた。それでも足はイルカ先生のもとへと。


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