「イ、イルカさん!大丈夫ですかっ」
「カカシさんこそ。ずっとこんなところで寝起きして待っていてくれたんですか?」
「俺のことはどうだっていいんです。それよりもごめんなさい。俺のせいで家が崩れて怪我をさせてしまって……」
「カカシさんだけのせいじゃありませんから、気にしないでください」
 イルカが笑ってそう言うと、カカシは訳がわからなくて首を傾げます。
「悪かったなぁ。うちのチビのせいで一人悪者にしちまってよ」
「チビじゃないってばよ!……でも、悪かったよ酷いこと言って。ごめんな」
 窓際に集まってきたナルトやアスマにまで謝られて、カカシはさらに何がなんだかわかりません。最初から順を追って説明すると、ようやく納得したようです。
「でも、結局俺が壊したのに変わりはないんです」
「いいんです。あれは不幸な事故ですよ」
 イルカが大丈夫だといくら言っても、カカシはしょんぼりとしたままです。
「ほら。怪我人がこんなところでいつまでも話し込んでるもんじゃねぇぞ」
「そうよ。イルカは早くベッドに潜って!カカシって言ったかしら?あなたは玄関から入っていらっしゃい」
「え。俺も入っていいの?」
 紅の言葉にカカシは驚きました。狼を家に招き入れようとするとは、さすがイルカの母、普通の母親とは一味違います。
「うちのイルカは頑固だから、きっとあなたを入れないとゆっくり休んだりしないでしょうよ」
「悪さをしたら俺が押しつぶしてやるから心配すんな」
 大げさな溜息を吐く紅も、むやみに脅すアスマも、目は優しく笑っていました。
 カカシは家に招き入れられ、イルカのベッドの側まで案内されます。それからイルカとカカシだけを残して、みんなは部屋を出て行きました。
「イルカさん、本当にごめんなさい」
「もう謝らなくてもいいですよ」
 イルカはベッドに寝ながらそう答えました。しかし、カカシは首を横に振って否定します。
「いえ。俺が悪いんだから。本当は、イルカさんが誰かと一緒に住んだりするのが嫌だったから。だからつい家の壁に八つ当たりを……」
 正直に謝るカカシに、イルカは躊躇いがちに尋ねてきました。
「俺が誰かと一緒に住むのは嫌ですか?」
「……はい」
 イルカは怒るだろうかと心配しながらも答えると、イルカが安心したように笑います。
「よかった。実は、俺もそうなんです」
「え?」
「もしカカシさんがアスマ父さんと一緒に住むって言い出したら、俺もきっと悲しくなってしまいます。俺も家の壁に八つ当たりぐらいしちゃうかも」
 イルカの口にする言葉の意味がよくわからず、カカシは戸惑いました。
「えーと、あの猪と一緒に住む気は欠片もないですよ?」
「でも、藁の家のことを最初に教えてくれたのは父さんだったから。話が弾んでカカシさんと意気投合したら俺が困るんです」
 何かの冗談かと思えば、意外にもイルカは真剣な表情で言い募ります。
 カカシにしてみれば、藁の家はただのきっかけにすぎず一緒に住みたいのはイルカだけなのに、本人はそれがわかっていません。
 このままでは自分の想いは決して伝わらないのだとカカシは気づきました。そして、直接口に出して伝えようと決意しました。ずっと窓の下で待っている間に、どうして言ってしまわなかったのだろうと後悔していたからです。
「あのですね。俺があの家に住みたいのは、藁の家だからじゃなくてイルカさんが一緒だからですよ」
「え」
「イルカさんが好きだから、お嫁さんがくるなんて話にも耐えられなかった……やきもちでイルカさんに怪我をさせるなんて最低ですね。でも好きなんです」
「やきもち、ですか?カカシさんが?」
 イルカが大きな目をさらに見開いて尋ねてくるので、カカシは小さく頷きました。しかし、じっと見られるのが居たたまれなくなって、イルカの怪我を理由に部屋を出て行こうと立ち上がった瞬間。イルカが慌ててカカシを呼び止めます。
「待ってください!」
 イルカはベッドから起きあがろうとして、怪我の痛みに呻き声をあげました。カカシが慌ててベッドへと寝かしつけようとします。
「イルカさん、寝てないと駄目ですよ」
 布団を掛けた上からぽんぽんと叩いてあげると、イルカは布団の中から恥ずかしそうに顔だけを出しました。
「俺もきっとカカシさんのことが好きです」
 イルカの言葉に、カカシは驚いて聞き返しました。
「本当ですか?」
「はい……」
 イルカはうっすらと頬を染めて口ごもりました。
「じゃあ、俺のお嫁さんになってくれますか?」
「そうすれば、ずっと二人で暮らせますね!」
 カカシの提案に、イルカはすごく良い考えだと頷きました。どうして今まで気づかなかったのだろうとすら思います。なので、イルカは顔を輝かせて『はい』と返事をしたのでした。


 それからは、イルカの怪我が治るまで、カカシは昼間は家を作り、夜は看病と忙しい毎日でした。その甲斐あって、イルカがサスケの家を出る頃には藁の家が完成していました。
 次男の木の家は崩れ落ちましたが、また建て直され、三男のレンガの家はずっと丈夫で長持ち。長男の藁の家は一番最後に出来上がりましたが、三匹の中では一番末永く大事に住まれたという話です。


END
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2003.11.16初出
2009.02.14再掲


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