それから数日が経ちました。
その間カカシは食べることも水を飲みに行くこともなく、ずっと窓の下で待ち続けました。イルカは熱が高くてうなされているようです。心配で胸が押しつぶされそうになりながら、カカシは待つことしかできないままでした。
そんなとき、サスケの家を訪ねてくる影がありました。大きな猪とすらりと綺麗な豚のようです。
それは三匹の子豚の父・アスマと母・紅でした。窓の下にいるカカシを気にしながら、襲ってこないことを確認して素早く家の中に入っていきます。カカシはといえば、二匹をちらりと見た後、興味がなさそうに視線を戻して座り込んだままでした。
「イルカは大丈夫か」
「だいぶ熱も下がってきたから」
サスケが、イルカの額の上にあるタオルを取り替えながら頷きました。
「心配したのよ。変な噂が流れているし」
「噂?」
「『狼がやってきて藁の家を吹き飛ばし、木の家を壊して、レンガの家の前で子豚を食べようと狙っている』って……」
「そうなんだってばよ!狼の奴ってば酷いんだからさ!」
ナルトがアスマと紅に狼がいかに酷いかを訴えます。しかし、それを聞いても両親は同意してくれませんでした。
「酷いって言ってもなぁ。今、紅と一緒に家の跡を見てきたが、どうみてもイルカの家は作りかけだし、ナルトの家は丸太の組み立て方が甘かったから崩れたとしか見えねぇぞ」
「ナルト。本当に狼が襲ってきたの?」
アスマと紅がそう言うと、ナルトは途端に泣き出しそうな顔になりました。
「だって、だって……俺、早く家を建ててイルカ兄ちゃんに会いたかったから。だから木は適当に組み立てたんだ。曲がっててもあんまり気にしてなかったし……でも、あの狼が叩いたりしなけりゃ崩れたりしなかったんだってばよ!」
「ウスラトンカチ。叩いたぐらいで崩れるくらいなら、強い風が吹いても倒れただろうが。狼のせいじゃないだろ」
「だって……俺のせいでイルカ兄ちゃんが怪我したなんてわかったら、俺、俺、兄ちゃんに嫌われちゃう!」
我慢できずにうわんわんと泣き出してしまったナルトに、紅は優しく言いました。
「馬鹿ね。イルカがナルトのことを嫌いになるわけないでしょう?ちゃんと謝れば笑って許してくれるわよ」
「……うん」
ナルトはぐすっと鼻を啜りながら頷きました。
ベッドの周りでずっと話をしていたせいか、熱が下がってきたイルカがふと目を覚ましたようです。
「あれ、ここは……」
きょろきょろと部屋の中を見回しています。
「イルカ兄ちゃん!」
「イルカ、よかったわ」
「え?何が?俺、どうしたんだっけ」
周りの嬉しそうな声とは反対に、イルカはぼんやりと答えて起きあがろうとします。しかし、まだ怪我も治っていないのだから、とすぐにベッドに押し戻されてしまいました。
「ナルトの家が崩れてきて怪我をしたから、サスケの家にいるのよ。ゆっくり休みなさい」
紅が優しく布団を掛けた瞬間、イルカがはっとしたように叫びました。
「今日は何日?俺、何日寝てた?」
「今日で四日目だけど」
「どうしたんだ、イルカ」
家族全員心配そうに見守る中、イルカは悲しそうに眉間に皺を寄せました。
「一日だけって約束だったのに……」
「何が?」
「家を建てるのは一日だけ休んでナルトの家へ遊びに行ったんだよ。もう四日も休んでるなんて、カカシさん怒ってるかも……」
「カカシさんって誰?」
「あのね。一緒に藁の家を作ってて、出来上がったら一緒に住む約束をしてるんだ」
イルカは今まで歪めていた表情をゆるめて、嬉しそうに説明しました。
「もしかして、カカシさんってあの狼のことかしら?」
「かもなぁ」
アスマと紅がひそひそと話し合っている間に、ナルトがイルカに近づいて話しかけています。
「ごめんなさい。俺がいい加減に家を建てたから、狼が叩いただけで崩れちゃったんだってばよ」
ぎゅっと目をつぶって謝るナルトに、イルカはにっこりと笑いました。
「いいんだよ、ナルト。次の家は頑張って建てような」
最初から怒る素振りも見せないイルカに、ナルトはちょっと泣きそうになりながら元気よく『うん』と答えました。
しかし、イルカはナルトの頭を撫でながら少し落ち着かない様子です。
「たぶん、その狼だったら、窓の下にずっといると思う。ここ数日はぜんぜん動かないまま何も食べてないみたいだ」
イルカの気持ちを察してサスケがそう教えると、怪我がまだ痛いにも関わらずイルカは慌てて起きあがりました。そして、すぐ側の窓を開けて下を覗き込みます。
「カカシさん」
怪我のせいで大声は出せませんでしたが、小さくても良く通る声でそう呼びかけると、窓の下で寝そべっていたカカシの耳がぴくんと動きました。
「カカシさん」
もう一度イルカが名前を呼ぶと、超特急で起きあがります。
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