カカシが道沿いに走っていると、丸太を使った木の家が見えてきました。窓の外からそっと覗いてみると、たしかにイルカの姿がありました。
 気づいてもらうために窓ガラスと叩こうと前脚を伸ばした瞬間、イルカが自分よりも一回り小さい子豚に笑いかけていました。それを見て、何故かカカシは叩くのを躊躇いました。その代わり中の話に聞き耳を立てます。
「どう?俺ってばすごくない?」
「本当に立派なのが出来たんだなぁ。すごいな、ナルト」
 イルカが家の中をゆっくりと見回して感心しています。ナルトは鼻をこすって、へへと照れくさそうに笑いました。
「イルカ兄ちゃんの家は?俺も遊びに行きたいってばよ」
「あー、まだ出来てないんだ」
「えー、まだぁ?どんな家?」
「藁で作っているんだ」
「藁?そんなんじゃあ、お嫁さん来てくれねーよ」
「ははは、いーんだよ」
「じゃあさ、藁の家なんて止めて、ここで俺と一緒に住もうってばよ!」
 それを聞いて、カカシは家の壁を思いきりドンと叩きました。自分でもそんなことをするつもりはなかったのですが、つい身体が動いてしまいました。
 藁の家を馬鹿にされたのが悔しかったのか、ナルトが一緒に住もうと誘ったのが嫌だったのか、それともイルカにお嫁さんがくるのが胸苦しくなったのか。ともかくいろいろな思いがごっちゃになって、思わず力を込めてしまったのです。誓って悪気はありませんでした。
 しかし、強く叩いた衝撃によって一本の柱がぐらりと倒れ、たちまちのうちに家が崩れてきました。
 イルカがとっさにナルトを抱えて庇ったため、ナルトに怪我はありませんでしたが、イルカは背中を強く打った上に何かで切ったのか血を流しています。
「イルカさん!」
 カカシが丸太を退かして呼びかけますが、返事がありません。思わず身体を揺さぶろうと手を伸ばした瞬間。
「イルカ兄ちゃんに触るな!」
 ナルトが大声で叫び、イルカを庇おうとします。
「早く怪我の手当を……」
 カカシが必死になって解ってもらおうとしますが、ナルトは話を聞いてくれません。
「何が怪我の手当だ。兄ちゃんのこと、食べるつもりなんだろ」
「違うよ」
「違わない!そうじゃなかったら、なんで家を壊したりするんだ。兄ちゃんが怪我したのはお前のせいだからな。狼なんかあっちに行けってば!」
 自分のせいと言われると本当のことなので、カカシは強く否定することが出来ません。また激しく責められると、さらに自責の念にかられて身動きが取れなくなるのでした。
 こうしてカカシが近づけないでいるうちに、イルカ同様手紙をもらっていたサスケがやってきました。
「どうしたんだ、これは!」
「イルカ兄ちゃんがぁ……!」
「とにかく俺の家に運ぼう」
 二匹の子豚がイルカを運ぶのをカカシが手伝おうとしても、
「イルカ兄ちゃんに手ェ出すな……触ったら殺すぞ」
とナルトが言うので、近づくこともできません。
 カカシとしても子豚二匹ごときに負けるつもりはないのですが、イルカの状態がさらに悪くなっては困るのと、可愛い弟を傷つけてはきっとイルカが悲しむだろうと思ったからです。サスケたちの後を手をこまねいてついて行くしかありませんでした。
 しばらくしてレンガで出来たサスケの家に辿り着きました。
 イルカを運び込んで、カカシの目の前で扉は閉められます。
 途方に暮れたカカシはしばらく扉を眺めていましたが、イルカを寝かせているベッドがすぐ窓の側だと気づいて、その窓の下に座り込みました。
 本当であれば窓の外からずっと見ていたかったのですが、サスケとナルトが睨んでくるので諦めました。けれど、どうしても側を離れることはできません。何もできないけれどせめて近くにいたいと願い、そこでいつまでも待つことに決めました。
「ごめんなさい、イルカさん。ごめんね」
 どうか目を覚ましますように。
 どうか怪我がたいしたことがありませんように。
 見上げた星空を眺めながら、カカシはずっとそう祈り続けるのでした。


●next●
●back●
2003.11.16初出
2009.02.07再掲


●Menu●