ようやく食べ終わった頃に、イルカに声をかけられた。
「デザートもあるんですよ」
カカシの顔がパァッと輝いた。
やっぱりイルカ先生は優しい。口直しのデザートが用意してあるなんて。
そんな甘いことを考えていた矢先。
出てきた物体に夢は崩れ去った。
スプーンでつつくとぶよよんと震えるそれは。
「……なんですか、コレ」
「サンマゼリーです」
確かにどよーんと濁ったゼリーには、サンマをほぐした身がそこかしこに見えていた。
まさかこれも食べないといけないのか。
半信半疑でイルカの方を伺うと、これでもかというくらいの笑顔しかなかった。
こ、怖い…
これを食べなかったときのイルカ先生が怖すぎて駄目だ。
カカシは覚悟を決めたが、それでもスプーンを持つ手が震えた。
サンマ甘いかしょっぱいか。
そんなうたがあったっけ。
今頭のなかはその言葉だけがぐるぐる回っていた。
甘いサンマなんて大嫌いだー!
せ、せめてゼリーがしょうゆ味だったら!
仮定の話をしても仕方がないが、それでも考えずに入られなかった。
死ぬ気で食べ終えた頃には、カカシの顔色は本当に生きているのかというくらい土気色をしていた。
「どうですか、カカシ先生」
「イ、イルカ先生ぇー。ごめんなさい、許してください。うわーん」
「反省しましたか」
「はいっ。もうしません!」
カカシがじわじわと涙が滲んだ顔で謝ると、ようやくイルカは仕方ないという表情でため息をついた。
「カカシ先生、誕生日おめでとうございます」
「イルカ先生っ!」
カカシは別の意味で滲んだ涙を溜めて、イルカに抱きついた。
「嬉しいですー。ありがとうございます!」
「でも!今度こんなことをしたら許しませんからね。わかってます?」
「はい。ぜったいぜったいしませんから!」
許されたことが嬉しかったし、イルカがいつものように優しく微笑んでくれていた。
これが一番の誕生日プレゼントだね、と思った。
カカシにはわかったことがあった。
好きな食材も、調理法次第では決して好物にはなりえないということ。
イルカ先生は絶対に怒らせてはいけないということ。
2つも学んでちょっぴり賢くなった敬老の日の出来事だった。
END
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2002.09.14 |