その日の任務が終わって報告書を出すと、上忍の控室へと直行した。ちょうど時間も良い頃合いなので、落ち着いて座る場所が欲しかったからだ。
ポーチからラジオを取り出し、メモと鉛筆を用意して待ちかまえていた。
「何やってんだ、お前」
声をかけてきたのは例によってアスマだった。
「今忙しいからしゃべりかけるな」
そう言うと、肩をすくめてソファーにどっかりと座り込んだ。
本当に構っている暇はないのだ。こっちは真剣なのだから。
だいたい俺はバレンタインデーの嘘を教えたこいつの仕打ちを忘れはしない。覚えてろよー、いつかイルカ先生にわからないようこっそり仕返ししてやる。ばれたらきっと叱られるだろうから今はやらないけど。
こっそり復讐を誓っていたら、待ちかねていたラジオ番組が始まった。
《よい子のみなさん、こんにちは!子供なぜなに相談室の時間が始まるよ〜》
「何だこれ。こんなの聞くのか?」
髭が五月蠅いので黙れという想いを込めて睨みつけると、やっと口を閉じた。まったく、大人しく煙草でも吸っててくれ。
《さ〜て、今日の最初の質問は……なになに?「お姉さん、こんにちは。」はい、こんにちは。「大好きな子からバレンタインにチョコを貰いました。今度のホワイトデーに手作りのマシュマロをあげたいのに、なぜか餅のようになってしまいます。どうしたらいつまでも柔らかいマシュマロが作れますか?失敗した手順を書いておきます。間違っているところを教えてください。カカ太より」なるほど!好きな子にマシュマロを作って贈りたいのね。すごいじゃない、カカ太くん!そういうことならお姉さんにお任せ!美味しいマシュマロの作り方を教えちゃいます〜》
はい、教えちゃってください、お姉さん!
気合いを入れて鉛筆を握りしめた。
ラジオで『カカ太』と言った途端、すぐ側でぶーっと吹き出す音が聞こえたが、俺はそれどころじゃなかった。髭のせいで聞き逃したらぶっ飛ばす。
《ここに書いてある手順を見ると、カカ太くんも基本はできてるんだけど、惜しい〜。まず、板ゼラチンは腰が弱いので、マシュマロにはあまり適さないの。粉ゼラチンを使ってね。それと、シロップは70度以下のときにゼラチンを入れると上手くいくと思うわ。今言ったことは絶対守ってね》
なるほど!失敗原因はそこだったのか。納得。納得です、お姉さん!
《頑張ってね、カカ太くん。お姉さん応援してるわよ〜》
ありがとうありがとう!俺はもちろん頑張りますよ、イルカ先生への愛のために。
よっし、さっそく今日帰ってから作り直してみよう。そう決意を固めてラジオを消す。
そのとき、控室の入り口が騒がしくなり、どやどやと人が入ってきた。
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2005.03.12 |