【白い恋人・その後】後編


「あれ?どうしたんですかアスマさん。なんだか複雑な顔をしてますよ」
声をかけてきたのはゲンマだった。よくつるんでいる特別上忍仲間のライドウたちも一緒だ。
「まあ、そのー、なんだ。カカ太くんも大変だっていう話だ……」
と歯切れ悪くアスマが返事をしている。
ラジオを聴いていなかった人間は、わけがわからず首を傾げている。
機嫌のいい俺は説明してやろうと思い、口を開いた。
「いや、ホワイトデーのマシュマロがね〜」
「ああ、マシュマロですか。あれでしょう?『イイお友達でいましょう』って意味が込められてる」
「え?」
いいお友達でいましょう?違う違う、永遠の愛だって。
「俺はそれ、キャンディーだって聞きましたよ」
ライドウが横から口を挟んでくる。
「マシュマロは『嫌い』だろ?」
「いやいや、それはクッキーだろ。キャンディーが『好き』だって」
数人でわいわい言い合っているが、結論が出ない。
今まで信じていたことを覆された上に正解もなしとは、いったいどういうことだ。呪いか!
「ああもう!いったいどれが正しいんだ」
思わず叫んだ。どれを贈ればいいのか混乱する。
「マシュマロかキャンディかクッキーか。それが問題だ!あああー」
頭を抱え込んで蹲る。
討論していた連中も何事かとこっちを見ていた。そんなとき、アスマが言った。
「そんな子供レベルのお返しで悩んでいるようじゃ、まだまだだな」
「子供レベル?」
「菓子で返すのは子供ってことだ。ホワイトデーは大人ともなれば物品だろ」
「えっ、そうなのか?……また騙してるんじゃないだろうな」
前に騙されたことを思い出して、またどうにも腹が立ってきた。
「違う。今度のは本当だ」
他の奴らもうんうんと頷いている。
「ああ。たしかに最近は菓子ぐらいじゃ喜ばれないですねぇ。義理チョコのお礼ならともかく」
そんなものだったのか。
迂闊だった。子供のサクラに聞いたのがよくなかったと反省する。大人の事情はまた違うらしい。
俺が貰ったのは義理チョコなんかではなく、イルカ先生の大きな愛の籠もったチョコなんだから。お返しもそれにふさわしくないといけない。
「倍返しが相場と決まっている」
「倍返し?」
「倍の値段の品物を買って返すってことだ」
「なるほど」
そんな習慣があるとは知らなかった。聞いておいてよかった、イルカ先生の前でまた恥をかくところだった。
「倍、倍ね。あのチョコレートはたいして量も入ってなかったから、安かったよなぁきっと」
「お前、馬鹿か」
「なんだと!」
「チョコレートは量で値段が決まるんじゃない。質だ。一粒で50両するのもあるんだよ」
「ええー、あんなのが50両?」
「お前の言ってた店は、この木の葉じゃ有名な高級チョコレート店だ。それぐらいはしただろ」
「し、知らなかった……」
「まあ、イルカもこんなチョコの価値のわからない男によくそれだけ出したもんだ」
「イルカ先生、そんなにまで俺のこと……」
じーん。感動だ。
そういえば女ばっかりの中で買うのは恥ずかしかったって言ってたっけ。
ああ、イルカ先生!
「そりゃカカシさん、すごいお返ししないといけませんねぇ」
まったくもってゲンマの言う通りだ。思いっきりうんうんと頷く。
「それじゃあ推定300両だとして、倍の600両かぁ」
いったい何がいいだろうと頭をひねっているとき、その声は聞こえた。
「甘いわ、カカシ!」
「あ、紅」
いつの間にか紅が立っていた。びしっと指差されている。
「ホワイトデートと言ったら10倍返しは常識よ」
「え、そうなのか?」
慌ててアスマの方を見やると、『じゅ、10倍!?』と青ざめている。ゲンマたちもざわめいていて、とても常識とは思えなかった。
「なんか違うみたいだけど……」
男連中を示して紅に抗議してみたが、鼻でせせら笑われた。
「ふん。飴やクッキーごときで誤魔化そうなんて、愛を語る男のすることじゃないわ!返すものが大きければ大きいほど、愛が込められていることが相手にも伝わるのよ」
それを聞いて、まさに俺の求めていたのはそれだと思った。
「なるほどっ。愛の証明ってわけだーね?」
「そうよ。カカシ、あんたは理解力がいいわ。将来有望よ」
「へへへー、それほどでも」
誉められて悪い気はしない。
それにしても10倍の値段の物っていったい何がいいのだろう。


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