【アスマ先生は今日も大変3】


「梅雨になると部屋にカビが生えて困りますよねー」
カカシがそんなことを言った。もちろん「ですます調」なのはイルカに向かって言っているからだ。
梅雨の鬱陶しい時期、ちょうど暇ができた任務受付所で三人でいた時のことだった。
本人は世間話のつもりだったのかもしれないけれど、部屋にカビが生えるというのは如何なものかと思う。
しかし、まさか面と向かってイルカが言うわけもなく、戸惑いしながら会話を続けているのはよくわかる。
「でもカカシ先生の部屋って、広くてあまり物とか置いてないでしょう?それでもカビが生えるんですか?」
イルカがそう言うと、ちょっと照れたようにカカシは笑って。
「あー、実はあれ、イルカ先生が来るからっていうんで、物置部屋に全部突っ込んだんですよねー。あはは。今は足の踏み場もない状態に…」
あはは、じゃねぇよ。
隠すなら全身全霊を持って隠せ。
「片付けなさい」
「でも、任務が終わって帰ってからじゃあ、やる気なくてー」
「休みの日があるでしょう?」
「だって休みの日はイルカ先生とイチャイチャしたいもーん」
「『もーん』じゃなーい!」
さすがにイルカの堪忍袋の緒は切れたらしく、片付けろ片付けないで言い合いになった。
たしかに休みのたびにカカシはイルカの家に行っていると聞く。
毎日任務で遅くなり、休みの日には家にいない。それではいつまでたっても片付くはずがない。
「今度の日曜日はカカシ先生の家の片付けに決定です」
「えーーっ」
「一人じゃ足りないので、7班に協力を要請します」
「二人っきりがいいです!」
「却下です。ナルト達には俺から頼んでおきますから」
そして、その後にイルカはにっこりと笑いながら言った。
「申し訳ないですが、アスマ先生もよろしくお願いしますね」
と恐ろしいことを口にする。
二人っきりだとおそらく進まないと容易に予想できるため、他に協力してもらおうという計画なのだろうが、頼まれたこっちの身にもなってくれ。
しかし文句を言おうにも無敵スマイルに阻まれて、俺ごときにはどうしようもなかった。ただ頷くしかない。
日曜日が永遠に来なければいいと思った。


日曜日。
最初イルカが頼んだとき子供たちは嫌そうな顔を見せたが、サクラが「何か弱点になる物が見つかるかも…」と言い出したおかげで俄然やる気が出てきたようだ。
弱みを握ってそれをネタに遅刻癖を直させると言っていたけど、そんなに上手くいくのだろうか。だいたい弱みを握りたいなんていったいどんな上忍師だと言いたい。
5人でカカシ宅を訪問する。
「いらっしゃーい。どうぞー」
扉を開けて出迎えたのはもちろんカカシ。
しかし、いつもの忍服ではないし額あてもしていないので、子供たちは驚いたようだ。俺は見慣れているからどうでもいいことだが。
遠慮なく部屋に上がり込んでみると、部屋は足の踏み場がないと言っていた割にはすっきりとしていた。
「意外と物がないですね。前もって片付けたんですか?」
「いえ。また物置部屋に…」
「それじゃあ、今日来た意味がないでしょう!」
イルカは物置の扉を全開にした。
「さて、みんな始めよう!捨てるゴミはあっちで分別。ゴミかどうか判断のつかない物は、こっちの箱にまとめるんだぞ」
「「「はーい」」」」
子供たちの元気のいい返事が返ってきて、俺自身も袖を捲った。
「お前ら、張り切りすぎて物壊すなよー」
カカシがやる気なげに声をかけた。
子供たちは、わーとかきゃーとか言いながらも任務を遂行しようと真剣だった。
それを横目に見ながら片付けに集中した。はっきり言って、さっさと片付けてさっさと帰りたかったからだ。
元がどんな物体だったかわからないような代物や埃がこびりついた物までさまざまだった。
そんな片付けの最中に。
「カカシ先生、これ……」
「あー、懐かしいなぁ」
サクラがベルトのような物を引っぱり出してきた。
「あっ、それ写真に写ってるヤツじゃん!」
「でしょー?」
「何これ、何これ!」
「うるせぇぞ、ナルト」
賑やかで和気あいあいとした雰囲気に思わず微笑んだ。
なんだかんだ言って、仲良くやってるんだなぁ。うちの班の奴らと同じだ。


●next●


●Menu●