「あー、イルカ。カカシはな、お前のことが好きなんだ」
「俺もカカシ先生のこと大好きです」
躊躇いなく答えられて、どうしたもんかなと少し迷った。
こういうことを上手く説明できた試しなど今まであっただろうか。
「あー、つまりだな。普通の好きじゃなくて、恋人として付き合いたいという類の好きなわけだ」
「えっ」
「いつも一緒にいたいってことだ」
こんなんで伝わってるのか?と不安になりながらイルカの方を伺ってみる。
しばらく考え込んでいる風だったが、ふいにアスマの眼をしっかりと見つめて答えてきた。
「俺、嬉しいです。ずっと一緒ってことですよね。きっと楽しいだろうなぁ」
その答えを聞いて、アスマはしまったと思った。
家族という意味に取ってしまったのかもしれない。
幼い頃に両親に死なれたイルカは、きっと家族というものに憧れているのだろう。
そういう弱みにつけ込んでしまって、誤解させたままカカシとくっつけるというのは詐欺に等しい。
いくらなんでも詐欺はいかん。
あわててイルカに弁明しようとした。
「一緒って言っても、家族とはまた少し違って……カカシのことだから人前で平気で抱きついてきたり、キスしたりするだろうし。それから、それから…」
あー、何を言っているんだ。
イルカの黒い瞳にじっと見つめられていると、もうなんと言えばいいかわからなくなってしまった。
「アスマ先生、わかってます。やだな。子供じゃないんだから、恋人の意味ぐらいわかってますよ」
「そ、そうかっ…」
思わず安堵の表情が満面に広がる。
「じゃあ、あれだ。カカシが告白してきたら付き合ってもいいってことか?」
「はい」
「そうか。よかった。それさえ確認できればいいんだ。悪かったな、変なこと言い出して」
「いいえ。俺の方こそアスマ先生のお話で決心つきました」
「じゃあ、またな」
「はい、お話しできて楽しかったです」
律儀に挨拶を返すイルカと別れた後は、足取りも軽かった。
鼻歌さえ歌ってしまいそうだった。
よかった。
やれやれ、これでお役ご免だ。
今までカカシにかけられた数々の迷惑も忘れてしまいそうなくらい嬉しかったのだった。


アスマからの「告白したら必ずOKをもらえる」という励ましの言葉によって、ようやくカカシはイルカに告白することを決意するに至った。
それでもアスマについてきて欲しい、と頼むのは忘れなかったが。
「俺、俺っ。イルカ先生のことがすすす好きです!つ、付き合ってください!」
どもる写輪眼のカカシ、という世にも珍しいものを見たのは、アスマの人生でも貴重な体験だろう。
まともにイルカを見ることが出来ないのか、ずっと俯いたままでの告白だった。
「はい。俺でよければ、よろしくお願いします」
「ほ、ホントですかぁ!」
パアッと顔を輝かせ、ようやく顔を上げる。
「俺、ずーっとイルカ先生に恋してたんです。でもずっと言い出せなくて……アスマに言われてようやく告白することができました!」
「そうだったんですか。俺も、アスマ先生のお話でカカシ先生がそういう意味で好きだって聞いて嬉しかったんです。きっと聞いていなかったら冗談だと思って断っていたかもしれません」
「そうだったんですかーv」
「あ、じゃあアスマ先生は恋のキューピッドですね!」
恋のキューピッドって……
「あはははっ。アスマが、こ、恋のキューピッドぉっ!」
イルカのいい返事をもらって、今までの緊張が解けたのか、腹を抱えてそこらを転げ回るカカシに殺意すら芽生えた。
たしかにイルカの言い方は脱力ものでどうかと思うが、告白も出来ないという奴のためにいろいろと慣れないこともやったというのに。お前にだけは笑われる筋合いはねぇ。
そんなアスマの心情を知ってか知らずか、カカシは笑い続けていた。
あまつさえ紅やアンコに教えてやらねばとまで考えていることは、アスマの常識の範囲外だった。


それ以来しばらくは里を歩くたびに
「よっ、キューピッド!」
と里中で声をかけられたとか。
更に毎日毎日カカシの惚気話をうんざりするほど聞かされる羽目になったのは言うまでもなかった。


END
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2002.05.25


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