【アスマ先生の受難・後編】


アスマはアカデミーの昼休みを見計らってイルカを訪ねることにした。
アカデミーの下駄箱の前を通り、職員室へ行こうとしたその時。
銀色の髪が見えたような気がして立ち止まった。
カカシ?
こんなところで何を…
辺りを見回して誰も居ないことを確認し、ある下駄箱から靴を取り出して履こうとしていた。
「おい、何やってるんだ」
何気に声をかけると、驚愕の表情で振り返った一瞬の後、じわりと涙を滲ませた。
「カカシ?」
「アスマ…ひ、ひどい……」
非難の目を向けられて、アスマは戸惑ってしまった。
声をかけただけで何かした覚えはないのだが。
「誰も見てないときに好きな人の靴をはいて3歩歩くと両想いになれるんだぞー!!」
「…………」
なるほど、その靴はイルカのだったわけだ。
アスマは、下駄箱に背もたれている身体が、ズルズルと下がっていきそうになるのをこらえるのに必死だった。
「お前が見てなかったら成功していたのに!アスマの馬鹿ーっっ!!」
カカシは叫ぶと同時に走り去ったが、叫び声の余韻はまだ辺りの空気を震わせていた。
その場に残されたアスマは、ひらりと舞い落ちてくるものに気づき、手に取った。
リボンのかかった銀紙。
カカシのものであるのは間違いないだろう。
アスマには何となく予想がついた。
これは……あれだ。
サスケに夢中のいのが五月蠅いまでに説明していたおまじない。
好きな人と自分の写真の口を合わせて、ラップで包み、口が重なっている部分にハートマークを書いて銀紙で包み、リボンをかけて毎日持ち歩けば、好きな人に告白されるという。
そんな馬鹿馬鹿しいことを実行するのも、年頃の女の子であれば微笑ましいが。
いい歳をした、しかも上忍の男がやると乾いた笑いが漏れるだけだ。
こんなことではいつまで経っても進展するわけがない。
このままでは、毎日毎日カカシのやる事なす事に脱力していなくてはならない。
イルカの気持ちを確かめなければ。
もはやアスマの使命感は最大限まで達していた。


昼休み、黒髪の中忍を探し出すのは、容易なことだった。
誰かに聞けば、あっちで見かけた。
中庭の方で見た。
いつも木の下でお弁当を食べてるわよ。
と、返事がすぐに返ってくるからだ。
「よう。ちょっといいか?」
「アスマ先生!」
ちょうど食事はあらかた終わっていて、話をするのには好都合だった。
まずはシカマルやいのやチョウジの話から始まり、世間話をして和やかな雰囲気を漂わせることに成功したアスマは、今しかないと思い口を開いた。
もうまどろっこしいことは止めだ。
直接正直に話すのが一番いいだろう。
それがアスマの出した結論だった。


●next●
●back●


●Menu●