【アスマ先生の受難・中編】


まずはイルカがカカシのことをどう思っているのか知る必要がある。
アスマは早速行動に移ることにした。
カカシを監視していれば何かわかるかもしれない。
アスマはストーカーカカシの後を追うというかなり屈辱的な行動に出てみた。
カカシはアカデミーが終わる頃に待ち伏せしている。
周りの不審気な視線をものともせず、わけのわからない歌を口ずさみながら待つ姿は少し哀れみを誘った。
やれやれ。だが、まあいい。
職員室に押し掛けていかないだけ、まだマシというものだ。
そう無理矢理自分を納得させるアスマであった。
カカシが目の前を通り過ぎるアカデミーの教師達を見送っているとき、何人かがピタリと歩みを止める。
なんだ?
疑問に思いながら眺めていると。
その中の一人が頭につけていた木の葉の額あてをはずし、腕につけはじめた。
それに習うかのように立ち止まっていた連中は腹につけ替えたり、バンダナを巻き始めたり、という行動を取り始めた。
その謎な行動の後に、ようやくアカデミーの門をくぐった。
カカシの真横を通るときはかなりの緊張感が漂っていた。
恐る恐る通り過ぎた後、もう声がかからないことを確認して、脱兎のごとく逃げていったのだった。
推測するに。
もしかして本気で風紀委員をやっていたのか……。
アスマはガックリと肩を落としてしまう。
あの分じゃあ、相当中忍たちを困らせたに違いない。
今では報復を恐れて身の回りを変えるほどに。
そのうち、カカシの望むとおりに、自動的にイルカとペアルックになる日は近いのかもしれない。
そんなことに情熱をかけてどうする。
というか、ペアルックになりたいならまずお付き合いだろうが。
そうすれば周りが被害を被ることもない。
どうもそこのところがアスマの常識とカカシの脳みその相容れない点だった。


どれくらいそうやって門の前で過ごしただろうか。
ようやく目当てのイルカが出てきた瞬間に。
「ああっ、イルカ先生! なんという偶然!!」
わざとらしく大声を張り上げる。
偶然って。
なんで下忍担当教官が偶然アカデミーにいるんだよ。
これって『それとなくアプローチ』の部類に入るモンなのか?
バレバレじゃないか?
するとイルカは
「ホントにすごい偶然ですね!」
とにこやかに答えた。
またしても手からポロリと煙草を落としてしまった。
『結構鈍い人でねー』
カカシのセリフが思い出された。
なるほど、ね。確かに鈍い。
アスマは落とした煙草をちらりと見た。
あー、もったいねぇ。
このままいけば何本も無駄にすることは間違いない。
そんなことをぼんやりと考えながら二人を観察するべきか否かを迷っていた。
「ええっ!今日はナルトと夕飯ですか!そんな羨ましいっ」
「そんな…俺の家で食べるだけですから、大したものじゃありませんけど」
「て、手作りですかっ。さらに羨ましい!」
「……あの、もしよろしければ、カカシ先生もご一緒にいかがですか?」
「いいんですかっ!!」
「もしよろしければ、ですけど。きっと大勢の方が楽しいですから」
「行きます!たとえ槍が降ってこようとも、ぜっったい行きます!!」
「じゃあ、俺は食材を買って帰りますから、また後で」
「あ、俺も行きますよ!作ってもらうんだから荷物持ちぐらいします」
「そうですか?ありがとうございます」
どうやら二人で買い物に行くことになったらしい。
並んで歩いている後ろ姿を見送ったアスマは、ため息をついた。
やっぱり見ているだけではなんとも判断しがたい。
イルカの態度が常識の域を出ないことから、カカシのことをどう思っているかなんてわかるものではない。
夕飯を誘うぐらいは同僚にだってするだろう。ましてやカカシはナルトの上司だし。
ナルトと一緒に交流を深めたいと望んだとておかしくはない。
かなり鈍いしな。
直接あたってみるしかないか。


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2002.05.18


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