「カカシ」
「あ、紅。どうだった?」
「……あんたがこんなひどいヤツだとは思わなかったわ。サイテーよっ」
あの紅が目に涙まで浮かべているとはどういうことだろう、とカカシは猛烈に不安になった。
しかもイルカ先生の悩んでる原因は俺らしい。
気づかないうちに何かしてしまったんだろうか。
「カカシ、あんた。…イルカ先生にタカッてるんだって!?」
タカルって何?
「上忍ともあろう者が、薄給の中忍に飯作らせて食い逃げしてるんだって!?」
「ええっ!!」
「恥ずかしいとは思わないの!心優しいイルカ先生は『お金がなくて十分なものを食べさせてあげられなくて申し訳ない』なんて言ってるけど、あんたサイテーよっ!」
がーん。
「あんな毎日毎日夕飯食べに行っておいて、食費も入れないなんて。あんた、はっきり言ってアホね」
「…そんなの、気づかなかった。なんでイルカ先生言ってくれないんだ」
「アホ、ボケ、カス。あのイルカ先生がそんなこと言い出せるわけないでしょ。なんていうか貞淑な妻そのものよね。愚かな夫に尽くす妻!健気だわぁ」
「貞淑な妻……イルカ先生、そこまで俺を!」
単純なカカシは早速紅の策略に引っかかっている。
「常識的に考えてたらすぐ解ることでしょうに、非常識にもほどがあるわ。さっさと謝ってきなさいよ」
「イ、イルカせんせーい!」
木の葉の里の誇る上忍が涙を浮かべて全力疾走する姿は、里中の注目の的だったが、皆関わりになりたくないとばかりに視線を逸らすのだった。
「…まあ、これくらいは言っとかないと、ね」
そう呟く紅の言葉は誰にも聞かれなかったのだが。


バンッ。
職員室の戸がすごい音を立てて開けられたため、そこにいた全員は顔を上げた。
しかしそれがはたけ上忍だと認識した途端、自分の仕事に集中するふりに全神経を傾けた。
「イルカ先生!どーして言ってくれなかったんですか!」
「カ、カカシ先生。どうしたんですか?」
カカシの勢いに驚いたものの、律儀に相手をするイルカ。
「これっ、これ、使ってください!」
カカシの差し出した通帳を見て、イルカは顔を赤らめた。
「…もしかして紅先生からなにか聞かれました?」
「どうして俺に直接言ってくれないんですか!俺はそういうことは無頓着な質なんで言ってもらわないと解らないです」
「いえ、これは俺が好きでやってることですから」
「え、イルカ先生。『俺のことが好き』だなんて大胆なvv」
「ち、ちがっ…」
「そうだ!せっかく告白してもらったことですし、俺達結婚しましょう!」
「え?」
「結婚すれば給料全部イルカ先生に渡すから、もう大丈夫ですよー。はっ、結婚式はいつにしますか?」
「あの、カカシ先生?」
「やっぱ早いほうがいいですよね。明日、明日は大安ですよ!決定です」
「ちょっと、カカシ先生!」
「じゃあ俺、火影様に報告してきますっ」
あまりの展開に呆然としていたイルカは、カカシが走り去ってからようやく自分の置かれている状況を把握したようだ。
「なんでそうなるんだー!!」
思わず叫んでみたものの、イルカの得たものは職員全員の哀れみの視線だけだった。


HAPPY END?
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2001.11.11


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