【カウンセラーは策謀す】


最近イルカの様子がおかしい。
カカシは気になっていた。
愛しいイルカ先生のお家にお邪魔して夕飯をご馳走になるまでに、ようやくなった今日この頃。
何か悩んでいるようなのだ。気になる。
俺が聞いても絶対しゃべってくれないし。
ここはひとつ、他の人に頼ってみるしかない。
と、カカシにしては珍しく切羽詰まっていた。


「なあ、紅。頼むよ。イルカ先生にそれとなく聞いてきてよー」
「ふふん。あたしは高いわよ」
「わぁ!紅先生、ス・テ・キvしびれちゃう!」
「うるさいわね。後で奢りなさいよ」
里の上忍の中でも高嶺の花と噂のたかいくノ一は、最近ひそかな楽しみがあった。
カカシがイルカにアタックして、なにかある度に一喜一憂しているのを見ること。
だってこんな楽しいことってある?
あのはたけカカシが…おかしくって。
人の不幸は蜜の味。
早速イルカ先生に会いに行かなくっちゃ。
紅はこれ以上ないくらい上機嫌でアカデミーに向かった。


職員室に入るとすぐに目当ての人物を見つけた。
たしかにため息をついたりして心配事があるようだ。
「イルカ先生」
「はい?あ、紅先生。どうされました?」
「イルカ先生こそ、ため息なんてついてどうしたの?」
「あ、あはは。これは別に大したことじゃ…」
「よければ相談に乗るわよ」
そう水を向けると、どうしようかと迷っている風だ。
これなら押せばイケル!と思った紅はもう一声とばかりに話題を振った。
「何でも言ってちょうだいよ。イルカ先生に元気がないとヒナタ達も心配しちゃって…」
「え!ヒナタ達が?すみません。任務のじゃまに?」
恐縮してしまったイルカに、逆効果だったかと反省する紅。
「違うわよ。そんな意味で言ったんじゃないわ。気にしないでね」
「本当に大したことじゃないのに。お恥ずかしい話ですが、給料日前で財布の中身が…」
「あら。そうなの?」
なんだ、がっかりだわ。せっかくカカシ関係かと思ってきたのに。
「でもイルカ先生の家計簿はいつもきちんとしてるって聞いてるのに、今月はどうかしたの?」
「え、ええ…」
困惑した顔をしているのを見て、やっぱりなにかあるようだ。
「実は食費がかさんでしまって…もっと計画的に使わないとダメですね」
食費?それってもしかして。
「やはり上忍の方が食べられると思うと粗末なものも出せないし。美味しいものを、と思っていたらエンゲル係数が高くなってしまって」
「え、だってカカシの分なんでしょう?彼が払ってるんじゃ…」
「そんな!俺の料理なんかにお金なんてもらえません!」
とんでもない、というように首をぶんぶん振る度に馬のしっぽが揺れるのね。
ってそんなこと考えてる場合じゃないって!
「じゃあもしかして二人分の食費を払ってるの!?」
「ええ。ナルトの時で慣れてるつもりだったんですけど、久しぶりに二人分だったんで勘が鈍ったかなぁ」
おかしいなぁ、と首を傾げる。
紅は猛烈な脱力感に襲われた。
人のいいイルカ先生。
つまりナルトと同レベルってことなのね、カカシは。
でもそれじゃあ面白くないのよ。
「カカシなんて何食べさせても美味い美味いって食うんだから、おからでも出しときゃいいのよ」
「そうですね、安くても美味しいものはたくさんあるんだから。これからはそうします」
そう言ってにっこり笑ったイルカはたしかにカカシを夢中にさせるだけはある、と思えた。
「それじゃあ、またね。イルカ先生」
「はい。紅先生、ありがとうございました」
職員室を後にした紅は考えた。
イルカ先生がカカシのことを何とも思ってないのは仕方がないが、このままでは自分の楽しみが無くなってしまうかもしれない。
ここはひとつ、イルカ先生には犠牲になってもらう必要があるわ。
ニヤリと笑ったくノ一は晴れた青空に似合わず邪悪だった。


●next●


●Menu●