【恋の花咲く勘違い3】


しかし、現実問題としてイルカ先生は身体を乗り出さんばかりにアスマに問い質している。
「まあ、惚れた人間がタイプってやつだ」
そんなありふれた答えに、イルカ先生の表情がぱあっと明るくなった。
「アスマ先生って心の広い人なんですね!」
ぐわっ。なんですか、その誉め言葉は。
そいつはただの怠惰な熊なだけなんですよ! 心が広いなんてイルカ先生の勘違い。誰でもいいただの節操なしなんですー!
あーあ、俺だったらそんな答え方しないのに。
でも尋ねられてもいない俺では、そんな仮定は無意味なのだ。
うう、あんまりだ。
落ち込む俺にイルカ先生が話しかけてきた。
「それじゃあ、カカシ先生の好きなタイプは?」
「え?」
「お、俺の好きなタイプですか……?」
「ええ」
俺の好みを聞くってことは俺自身に興味があると思っていいんですよね、イルカ先生?
喜びで頭に血が上りそうだ。
しかも、さりげなくどころか全力でアピールできるチャンス。
緊張で唾を飲み込んだ。
「えーっと……子供好きで面倒見がよくて」
そう、子供の前では笑顔全開。もちろん叱るときだって怒り全開だけど、その真剣さが自分のためを思ってのことだと子供だって知っている。
「お年寄りにも親切で優しくて、老若男女誰からも好かれてて」
もう聞く人聞く人みんなイルカ先生が好き。絶大な人気を誇っているのだから俺の心配は半端じゃない。
「人に教えるのがうまくて」
教師として優秀なのは三代目だって認めるところだし。
「自分のことよりも他人のことを真っ先に考える…」
そうなんだ。いつも自分のことは後回し、他人の仕事まで代わって引き受けたりして。お人好しなのはいいけれど身体を壊さないかと心配だ。
「暖かくて笑顔の可愛い人です!」
思わず拳を握りしめた。
ここまで言ってしまえばイルカ先生にもわかってしまっただろう、俺が誰を好きかを。
告白したも同然。どう反応されるかとドキドキして待つ。
が、しかし。
「素敵な理想の人ですね」
にこやかに返された。
あっさり流されたー!?
全然伝わった気配はない。
もっと具体的に言うべきだった? アカデミーに勤めていて黒い瞳で黒い髪、ナルトの元担任だった人です!とか。
そこまで言えれば苦労はない。
いや、もしかして気づかないふりとか? そっちの方がショックだ。
どっちにしろ俺の好みなど言っても何の意味もなかった。ガクリと肩を落とせば、アスマが腹を抱えて笑っていた。くそっ。
もうイルカ先生の好みのタイプを聞く勇気すらない。
だって『アスマ先生です』とか決定的なことを言われたら立ち直れないじゃないかー!
今日は散々だ。
でもまだ諦めるわけにはいかない。
帰り際にイルカ先生を呼び止めた。明日からしばらく里を離れることを告げ、約束を迫った。
「約束してください! 俺がいない間、アスマと二人っきりで飲みに行ったりしないって」
「え、でも……」
イルカ先生は頷くのを躊躇った。
つまり、邪魔者が居ない間に二人で飲みに行こうと張り切っていた証拠だ。このままいけば親密度がアップして更に髭ごときに心奪われる可能性も高い。
俺が見ていない間にそんな事態になったら、と思うと恐ろしい。
そんなことさせるか! どんな些細な要因も排除せねば。
良い返事が貰えなければこの握りしめた手を離さない!という決意を込めて待っていると、
「わかりました。約束します」
と言ってくれた。
それどころかにこっと可愛く笑いかけてくれるので、もしかして俺の一途な想いが通じたのじゃなかろうかと胸を膨らませた。


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2007.11.24


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